“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第265回
場違いな客

なじみのショットバーを訪問したときのことだ。
カウンターだけのこの店は、シングルモルトの品揃え、
そして、カクテルの旨さで知られている名店。
夜の11時過ぎに到着したところ、
先客は三人のグループと一人客だけ。
その間に席をとった。

まずは、桃のフローズンカクテルを注文。
右隣の三人連れがやたらにテンションが高い。
結構な歳の男性と中年の女性二人の組み合わせで、
男性はラフな服装でシーバスリーガルの水割りを飲んでいる。
この店でわざわざシーバスリーガルを飲まなくてもいいのに
と思いつつ、ついつい観察。
すると、私のためにカクテルを真剣につくっているマスターに、
やたら話しかけて邪魔している。
店に対して客がコミュニケーションを計るタイミングとしては
最悪の状況だ。

そうしているうちに、カクテルが完成。
さっぱりとした甘みが蒸し暑いけだるさを解消してくれる。
マスターが左隣の一人客を紹介してくれたが、
彼も日本酒が好きとのことで、
色々と地酒の話、居酒屋の話を始める。
しかし、なんか会話が聴き取りにくい。
右隣の三人組みの会話がやたら大きいのだ。

注意をするかどうか、随分迷った。
「声をもう少し低くしてもらえませんか?」と言うのは簡単だが、
なにかぶつかりそうで、
その後の店の雰囲気が険悪になりかねない。
マスターもちょっと困った顔をしている。
うるさかったら店を出ればいいのだが、
まずは、少し様子を見てみようということにした。

すると、今度はその3人組の仲間が数名
どどっとなだれ込んで来た。
さらにテンションがあがるが、これは、注意するよりも、
こちらが退散したほうがよさそうという結論を出す。
すると、知り合いになった左隣の客が、
「3人だけのときに注意しようと思っていただんですけどね。
 これだけ数が増えるとどうしようもない」と、うちあける。
同じ思いをして迷っていたのだ。

それから、こちらも話しがはずむ。
神楽坂「伊勢藤」では『希静』という色紙が貼ってあって、
お客の会話が高くなると、
店主が「お静かに願えます」と注意するんですよ、
と関連話題をきっかけに盛り上がる。
「彼らが飲んでいるのを見ると、
 他の店でもの飲めるものばかりですよね」と、
いい店に来た、
『その店の価値を知らないうるさい客』についての話題盛は
なかなか面白かった。

料飲店のよさとは、店と客と相互につくるものだ。
いい店でも客の態度が悪ければ、
居合わせた客は気分の悪い思いをする。
客側の論理で、あの店はよくない、と評価しているのは、
以外と客側に責任があることも多い。
しかし、そういう客が一見で突然現れたときに
店側が旨く対処するのは難しい。
伊勢藤のように毅然とした態度で注意すると、
あの店は怖いという噂がたつ。
伊勢藤は、静かに飲んでもらえる居酒屋が少なく、
それがうちの売りだから、という考え方で注意をしているという。
静かに飲んでいる客にとっては、その注意が嬉しい。
私の経験から言えば、伊勢藤で注意を受けるのは、
若者よりも集団できているおじさんたちが多い。
集団になると話しが盛り上がり、
ついつい声が高くなってしまうのだ。
現在の飲み屋の課題を見せられた一夜であった。


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2005年9月2日(金)

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