“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第301回
調理人の勘を科学する

前回紹介した名古屋の「京加茂」さんから、
お礼のメイルをいただいたが、
そのなかで、特に幽庵焼きについての私の見解について、
お褒めの言葉をいただいた。
その部分だけ抜粋しよう。

 「・・・それにしても先生は料理のことをよくご存知ですね。
 幽庵焼きにする場合、
 素材と漬け汁のバランスをとることは本当に繊細かつ微妙で、
 ちょっとしたバランスの狂いで味が大きく崩れてしまいます。
 これは魚の脂肪や水が
 バランスを崩す原因になっているからですが、
 これをすべて勘で見当をつけ、
 漬け込んでいかなければならないところに
 この仕事のむずかしさがあります。」

私が幽庵焼地の難しさについて、
全て理解していたわけではないので、
過分な褒め言葉で恥ずかしい思いをしたが、
あらためてプロの調理の勘の凄さを認識した。
京加茂さんは吉兆系できちっと修行して、
伝統の京料理の心をつかんでいて、
その勘所を発揮しているわけだが、
同じメイルに他の素材で失敗したことも書かれていた。

プロの勘というと、
素人では全く到達できないもののように思ってしまう。
天麩羅、焼鳥、ステーキ等々において、
いつ返すか、いつ引き上げるかなど、
プロは時間経過だけでなく、
視覚、嗅覚、聴覚を駆使して素材の変化を予測して、
最上のタイミングを計っているようだ。

このプロの勘を温度計測などから明確にして、
家庭でもプロと同等の料理を作れるようにできないか、
という発想で私の研究室で調理支援の研究を行っている。
煮物で火を強火から中火にするタイミングなど、
まさに、沸騰直前の温度でプロは行っている。
それが、煮汁の状態でわかるらしい。

一方、決まったメニューの調理、
例えば、蕎麦を茹でるとか、肉を焼くとかのときには、
プロでもストップウォッチで計ることによって、
安定な仕上がりを保証していることが多い。
蕎麦の場合は、20秒とか40秒とか、
その太さや加水率などに応じた最適な茹で時間を決めて、
毎回同じ茹で加減になるようにしている。

素人は打つたびに太さが違ったりするので、
数本ためしに茹でてみて、
引き上げるタイミングを事前に確かめるのがいいが、
プロは毎日ほぼ同じ仕事をしているので、
だいたいは一定の時間で茹でている。
プロはそばの太さは同じに打つし、
焼いたり、煮たりする食材の下仕事として、
同じ大きさ・形状に揃えて切ることをする。
そうして、全ての素材が同じ火の通り方をするようになる。

このように、プロでも勘に頼らずに
安定した調理の仕上がりを保証する方法は大歓迎であるが、
素材の質の影響が大きいものは
勘に頼る部分がどうしてもでてくる。
この部分を解明できたら
とても面白いと思って研究を進めているが、
果たして正解が得られるかどうか。
簡単にはわからないだけ面白い研究テーマである。


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2005年10月24日(月)

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