“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第567回
日本酒は復権されたか?

ここのところ、日本酒のイベントが目白押しだ。
メディアも日本酒を取り上げてくれるようになっている。
私自身が関係した一般紙・誌での日本酒記事だけでも、
産経新聞、毎日新聞、サンデー毎日と続き、
来月には別の週刊誌でも燗酒特集を掲載予定だ。

日本酒のイベントも盛んに行われている。
その主催団体は造り手側、中間流通問屋、
売り手側、日本酒サービス団体などだが、
週末になると実に多くの日本酒の試飲ができるイベントが
目白押し。
毎週いろいろな蔵のお酒を愉しむことができる。

しかし、これで日本酒復権と安心するのはまだ早い。
業界でもまだ日本酒の捉え方がきちっとされていないし、
常識の間違いにも気がついていない人が多い。
日本酒のイベントに集まる蔵も、
意図して造りのいい蔵だけを集めてくれればよいのだが、
いつでも玉石混交。
より、穏やかな表現をすれば、
方向性の違う日本酒を目指す蔵が入り混じっている。
蔵元交流会主催の燗酒楽園にしてもそうだ。

現在、日本酒の進化の方向性をおおまかに分けると、
味系と香り系の二派になる。
味系は、神亀、諏訪泉、竹鶴、秋鹿、奥播磨、宗玄、
るみ子の酒、悦凱陣、開運、鯉川、鶴齢、初駒など。
熟成し、燗にしてより旨くなる純米酒が主力製品。
灘や伏見の大手酒造メーカーの上のクラスの純米酒も
このジャンルに入れていい。

一方、香り系は、郷乃誉、十四代、醸し人九平治、
南部美人、磯自慢、出羽桜、鳳凰美田、明鏡止水、豊盃、
正雪、醴泉、酔鯨など、多くの蔵が該当する。
味系よりもはるかに多い。

さらに、ポリシーを持たずにどっちつかずに、
なんとなく酒造りをしている蔵も全国には多い。
こういう蔵の酒も試飲イベントには加わってくる。

この味系と香り系の二つの方向は全く違う。
それを嗜好する消費者も二手に分かれていて、
愉しみ方も全く違う。
食事に合わすなら、味系のもの。
それも熟成させて、燗をつけるととても料理によく合う。
香り系は酒そのもののインパクトは強いが、
料理に合わすのは難しい。
飲みあきもしてくる。
熟成させるよりは、新酒のうちに飲むほうがバランスがいい。
香り系を特に好む消費者も多いので、
それはそれでいいのだが私は苦手だ。

香り系が好きな消費者はおそらく、
我々が好んで飲む味系の熟成純米酒は
老香(ひねか)がするといって、逆に苦手なのだろう。
小売酒屋や日本酒の評論家のなかには、
両方許容できる八方美人的な人もいるが、ちょっと節操を疑う。
熟成して、燗をつけて旨い造りの
いい純米酒という味系の方向性は、
ここに挙げた蔵元さんたちや、
それを支援する地酒小売店・居酒屋の努力によって、
消費者への理解は深まってきた。
拙書「世界一旨い日本酒」も、
いくらか貢献しているかも知れない。

しかし、現在の地酒の知名度から行くと、
香り系がまだ主流を占めている。
ほとんどの居酒屋、割烹、鮨屋、蕎麦屋は、
大手の普通酒だけだったり、
香り系の銘柄が知名度が高いからという理由で置いてある。

味系の純米酒が日本酒業界と消費者に広がるまでは、
まだまだ、日本酒の復権にはほど遠い気がする。


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2006年10月31日(火)

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