“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第580回
森戸海岸で獲れたての魚と昼酒

矢嶋さんの、刺し網を引くうごきがゆっくりとなった。
船縁に滑り込んできる網に何かが引っかかっている。
矢嶋さんが笑顔で獲物を見せてくれた。
菱形の魚体。
カワハギだった。

一つの網にかかっている魚は僅かだ。
小さいものはそのまま海に帰していく。
鱸、オコゼ、蛸、ウマヅラなどが獲れた。
三箇所で網を揚げて数匹の収穫。
実に効率の悪い漁だ。
最近は、観光釣り船で禁止されているコマセも使い、
大量に魚を獲っていったり、
シラスを底引き網で年がら年中獲ってしまうので、
それを追って入ってくるヒラメ、鯛などの魚が
極端に減っているという。
また、釣り船のコマセは磯に堆積して、海草が枯れてしまい、
魚の住処がなくなってしまうそうだ。

網を全部引き上げてから、矢嶋さんは船を名島に横付けして、
磯ゴテを持って岩に飛び乗った。
何をしているのかと思ったら、
岩にこびりついている亀の手をはずしている。
これが旨いという。
浜へ戻り、昼食の準備にかかる。
こちらは持参してきた諏訪泉田中農場を開ける。
青空の下で海を見ながら飲む諏訪泉は最高の味。
矢嶋さんが、魚を卸している惣菜屋から
酒肴をもらってきてくれた。

アジフライに、鰹のタタキ。
このアジフライが旨い。
もうすっかり冷めているのだが、
味の素朴な旨みとコロモのゴツゴツした食感が合わさり、
純米酒とよく合う。
途中でご飯が食べたくなり、
これまた矢嶋さんが持ってきてくれたご飯をいただいたら、
途中でやめられなくなってしまった。
この鯵は地場で獲れたものではないそうだが、
なかなかの味だった。
カツオも諏訪泉によくあって、
矢嶋さんが海鮮味噌汁の準備をしている間に、
一人で諏訪泉をかなり飲んでしまった。
そうしているうちに、
近所に住んでいる矢嶋さんの知り合いが集まってきた。
皆さんに諏訪泉を勧める。
とても旨いと反響があった。

そうして、一人で純米酒を愉しんでいる間に、
矢嶋さんは味噌汁を完成。
早速いただく。
最初は思ったほどは、魚の出汁は出ていない。
ところが、30分も経ってお代わりをしたら、それが絶品。
いい出汁の旨みが口のなかに広がる。
そして、味噌汁に入っていた亀の手がとても旨かった。
殻を剥いて中身を食べると、ツルツルとした食感。
ちょっと貝類に似ている。
ほどよい甘みもある。

のどかな海岸の昼下がりに飲む純米酒。
それに、獲れたての魚介類が肴となる。
矢嶋さんとも、日本の漁業問題、生態系の維持の課題など、
話がはずむ。
とても愉しい時を過ごした。
十分すぎるほどの美味しさに満足して、
三浦大根の取材に向かって、浜を後にした。


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2006年11月17日(金)

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