“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第636回
美味しさを決める要素は何だろう?

ここのところ、新たに「美味しさ」をテーマにした
新書の原稿の仕上げにかかっている。
このコラムでこれまで書いてきた内容も随分流用しているが、
ただ、美味しい経験を羅列しているだけではない。
体系づけた「美味しさ論」の展開という、
新たな切り口に挑戦している。
その作業のなかで、あらためて、
美味しさとは何かということを随分考えてきた。

昔から変わらずに思っていることは、
美味しい料理の必要条件としては、
まずは、使用する食材の質が高いこと。
どんな名料理人が調理味付けをしても、
粗悪な食材で旨い料理を作ることは不可能だ。
いい食材を、その旨みが最大限に発揮されるように
調理することが肝心。
その過程で料理人の腕が発揮される。

では、いい食材とは何だろう?
まずは、天然の魚介類が思い浮かぶ。
しかし、天然ならどれでも安定して
同じように旨いというわけではない。
天然の魚介類は旨い可能性は高いが、
自然のなかの様々な環境で生きているものは、
その状況に応じて固体さが明確にある。
いい環境に住み着いている魚介類は旨いが、
環境が悪くなれば質は落ちてくる。

つくばの自然育成鴨農場の「西崎ファーム」の鴨も、
天然の魚介類に似ていて、
何万羽の鴨が脂のノリなどの個性がそれぞれ違う。
安定した品質とはならない。
最近では、この個性の違いを逆に西崎さんは利用していて、
どこの料理屋にはどの鴨を、
とオーダーメイドの鴨の提供をしている。

これに対して、養殖やケージ飼いのように、
生育環境が均一な育て方では、
個体差が少なくなって、安定した味を提供できる。
鰻の「坂東太郎」のように
養殖でも天然に生育条件を近づけて、
天然に近い味を実現しているところも多い。
そして、豚や牛では、
ケージ飼いのほうが肉質は柔らかくなるというメリットがある。
品質も安定する。
茨城県の鹿熊養豚場では、ケージ飼いだが、
餌を工夫することによって、肉質は極めて上質だ。

このように、自然・天然に近い育成では、
個体差が大きくなり、飼育環境を整えた養殖・牧畜では、
安定度が高くなり、生産性も向上する。
個体差が最も大きいのは、野生の獣であるが、
最近では蝦夷鹿のように人家に近い場所に降りてきて、
餌も人間の育てた野菜を食べたりして、
野性味が少なくなっている傾向もある。
いずれにしても、ただ天然が養殖より優れていると、
単純な話ではないところが面白い。


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2007年2月12日(月)

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