死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第15回
新規事業の成功と失敗

たとえば、商社は売手と買手の間に入って取引を成り立たせ、
その報酬として口銭を受け取る商売である。
大きな取引で、年間を通して成約があり、
かつロ銭を払うだけの余裕のある商品は
インスタント・ラーメンから宇宙衛星まで、
何でも商社の商売の対象になる。

しかし、そうはいっても、
取引の内容は猫の目のように変わってゆく。
繊維や鉄鋼が産業界の主流を占めていた間は、
商社の取引品目は、産業界の大半を網羅し、
これらの業界の成長と足並みを揃えていた。
ところがそのうちに、
石油、自動車、コンピュータの時代になった。

石油の場合はメジャーと
その系列販売店がすでにあるていど販売網を築いていたが、
商社は辛うじて競争に割り込んで石油を
自分たちの扱い商品に加えることができた。
これが他の工業製品になると、
テレビのような家電製品は何とか扱えても、
自動車やコンピュータはついに歯が立たずに今日に至っている。
というのも原料や市況商品のような
売りっぱなしですむ商品と違って、
アフター・サービスを伴う日進月歩の工業製品は
商社の手におえないことがはっきりしてしまったからである。

もしこのままじっとしていると、
一次産品や市況商品の占めるウェイトは
相対的に小さくなる一方だから、
商社の商売はジリ貧になる。
何かいい新規事業はないか、と商社はあせる。
そういう立場にいる商社にとって開発は、
最も重要な部門である。
だから上司から、「君がこの仕事をやれ」
と目をつけられて開発を任されるようなら、
まず会社の動きと大きな接点を持っていることはたしかであろう。

この二十年来商社の新規事業として
目を見張るような成功をしたものには、
石油、不動産、ファースト・フードのような分野がある。
これらの事業を商社に導入することに成功した人、
ファースト・フードの国内チェーンを
レストラン業者と組んで一応、軌道に乗せた人は、
会社の功労者になる。
出世の道が約束されたようなものである。
次に商社は、情報産業に目をつけた。
いくら、よろず屋の商社でも、
はたしてこの分野で成功できるかどうか、
まったくの未知数といってよいだろう。
同じことが製鉄業者の多角経営についてもいえる。

鉄の時代がもう終わりに近づいたことは、
誰よりも製鉄業者自身がよく知っている。
たまたま内需の拡大と景気の恢復で、鉄の市況が恢復し、
あと一年や二年の好況は見込めるだろうが、
製鉄能力が新しい需要をカバーしてしまえば、
鉄は織維と同じ運命を辿るようになる。
製鉄会社のトップもそうした危機感を持っているから、
周辺産業に手を出したり、半導体からレジャー産業まで、
手当たり次第に多角化に乗り出している。

超薄板をつくったりビル建設に進出するくらいのことなら、
製鉄会社が造船をやったのと同類だから、
経営よろしきを得れば、あまり心配はないだろう。
しかし養鰻をやるとか、レジャーに進出するとか、
コンピュータのソフトづくりをするとか、
勝手の違う分野になると、
最終的には鉄の儲けで無駄遣いした
損失金の穴埋めをさせられることも
覚悟しなければならないであろう。

その会社の体質に合うものと合わないものの区別があり、
合わないものは結局は生き残れずに姿を消してしまうことになる。
以上をみてもわかるように、大きな会社でも、
いつも同じことをやっているわけではない。
またいつも成功しているわけでもない。

ちょうど個人が独立して新規事業に進出しても、
必ずしもうまくゆくとは限らないのと同じである。
今まで手なれてきたことをくりかえすのならいざ知らず、
まったくの新規事業であれば、
さんざ失敗をして何回も整理をさせられる。
うまくいって成功すれば儲けもので、
むしろ苦闘の末に敗退することが多いのである。

だから、サラリーマンをやっていても、
そうした風雪に耐えて、
変化に対応していけるようにならなければ、
とても定年まではもたないのである。





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2014年12月24日(水)

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