死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第38
お金は、使ってはじめて、”お金"になる

もう一人、台湾の知りあいにべつのタイプの金持ちがいます。
この人は、もう亡くなったんですが、
ろくに学校も出ていないのに、
戦後、台湾に来て、いろんな事業に成功して、
私がお会いしたときは、上場会社三つのオーナーでした。

この人は、儲けるのも儲けたけれど、
使うほうも派手で金離れがいい。
お妾さんが五人もいるのに、それでも満足しないで、
好みの女優さんに会うと、
すぐポケットから小切手帳を出して、
目の前でサラサラと金額を書きこみ、
「これでどうですか」と言ったりします。

あるとき、一緒に食事をして、
「あなたはお金儲けも上手ですが、
使うほうもなかなか気前がよろしいそうですね」
と冷やかしたら、
「先生は、私が言わなくともおわかりでしょうが、
お金は儲けただけではお金じゃないでしょう。
使ってはじめてお金になるんです。
一生懸命儲けたお金を貯めこんでいる人がいるけれど、
私に言わせると、ああいう人は金持ちでもなんでもない。
金持ちというのは、いくら貯めたかではなく、
一生のあいだにいくら使ったかで決まるんです。

お金は、使い終わってはじめて完成品になる。
たいていの人は半製品メーカーのままで死んでしまって、
二代がかりでやっと完成品に仕上がるんですが、
私は素材から完成品まで一貫作業でやっているんです」

なるほどと感心しました。
中国人には珍しい考え方ですが、
お金を貯めることしか知らない人には、
煎じて飲ませたいクスリですね。

お金は、ただ貯めたり、儲けたりするだけでなく、
使い方もだいじなんです。
もちろん、ある程度のお金を貯めるまでは、
ほしいモノを我慢して、
出ていくほうをおさえなくてはならない。
「お金を貯める最大の秘訣は使わないこと」であるのは、
何度もお話ししました。

家賃や光熱費、あるいは子どもの授業料を払ったら
ほとんど残らないという状態のときは、
こんなことまで考える必要はありません。

ただ、すこしずつ余裕ができて、
いわゆる可処分所得の分がふえてきたら、
今度は上手なお金の使い方を勉強しなければいけない。
はいってくるほうと出ていくほうとのバランスも
考える必要があるということです。
現代は、とくにそれが重要な時代じゃないかと思います。

同じお金を使うにしても、
チャーミングなお金の使い方ができる人とそうでない人がいます。
チャーミングな使い方、
いい使い方をする人の周りには人が集まり、
逆にお金がはいってくるのです。

他人の使うお金も、
自分のお金と同じように思ってだいじにする人だって、
チャーミングなお金の使い方をする人なんです。





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2013年5月9日(木)

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