死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第37回
一生懸命倹約して貯めたお金を使うのは死ぬ苦しみ

お金の貯まる大原則は、「お金を使わないこと」。
これは小学生にもわかる理屈です。
これを初級科とするなら、
もっとお金を活かし、もっとお金をふやす上級科は、
矛盾するようですが「お金を使うこと」です。

お金は、貯めるより使うほうがむずかしいと言いますが、
お金のない人に限って、
「そんなことはない。おれなら、いくらでも使ってやる」
と言うんです。
これは、当たり前の話で、お酒を飲んだり、
飯を食べたりするくらいなら、誰も迷ったりはしません。
その程度のお金しか持ったことのない人は、
お金を貯めるむずかしさくらいしかわかっていないんです。

お金を貯めて金持ちになった人は、
そのために一生懸命倹約をしています。
そうやって、やっとできたお金ですから、
使うのは死ぬ苦しみなんです。
それは、お金のない人には、ちょっと想像がつかないことです。

私の友人に、台湾でいちばん
金儲けがうまいと言われている人物がいます。
年は私より七つかハつ上ですが、倹約家ですから、
使うはじからお金のほうが貯まってしまって、
私に会うたびに
「お金は、使っても使っても使いきれませんね」と言います。

あるとき、その夫婦がこう言った。
「私たちもいつも世界旅行をしていますが、
邱先生の話を聞くと、
どこどこの料理がうまかったという話をなさる。
今度、ヨーロッパに行かれるとき、
ひとつご一緒できませんか」

もちろん、私も承諾して、パリで同じホテルに泊まり、
一緒に買い物に出かけたことがあります。
私たちは、旅先でほしいものを見るとすぐに買います。
もう一度くればよいと思ってやめると、
たいていはそれっきりになることを体験的に知っているからです。

ある店で、私の女房はハンドバッグを見て、
すぐにそれを買いました。
日本のお金にしたら五、六万円のモノです。
向こうの奥さんも、
その店のハンドバッグが気に入っていたんですが、
いざ買うだんになると「やっぱりやめとくわ」。

「どうして買わないんですか」とたずねたら、
「高いんですもの」と言うんです。
万事この調子で、どの店へ行ってもほとんど買い物をしない。
「これじゃ、お金を使いきれないわけだ」と、
私は大笑いをしました。

ほんとうは、向こうのほうが、
私より何倍も金持ちなんです。
しかし、お金の使い方は私たちよりうまいとも言えないし、
気前がよいとも言えません。
お金を残す人ほど、この傾向があります。





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2013年5月8日(水)

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