死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第50回
町いちばんの豪華なタ食で、お金の値打ちがわかった

これからお金を貯めようとしている人たちに、
私はときどき、ぜいたくをすすめています。
ぜいたくをしてみると、
お金のありがたさが改めてよくわかるからです。

私の育った家は、父親が大の食道楽で、
食べる物にたいへんお金をかけました。
当時、私の家で働いていた男たちの月給が
十五円ぐらいのときに、
一日のおかず代がだいたい十円でした。

住んでいる家は質素だったのに、
食べ物だけは昼も夜もテーブルから溢れるくらい。
夜の食事は毎晩、二時間以上も時間をかけて食べました。

私の同級生の中に、
町の大金持ちの息子がいてその家に遊びに行ったとき、
あまりにも貧しいモノを食べているので、
びっくりしたこともありました。

そんな家で育ったので、けっこう、
料理の仕方もおぼえました。
私も私の弟も自分で料理をしますが、
私の姉は臼田素蛾といって
テレビで中華料理の先生をやっているし、
妹は大学で家政学の先生になっています。

気がついてみたら、
私は料理の本を何冊も書いて、
それがベストセラーになったりして、
けっこう、生活の足しになったりしています。
こういうのを 「芸が身を助ける」不幸せ
というのかもしれませんね。

こんな教育を受けてきた私ですから、
自分の子どもたちにも、
「ムダ使いをしてはいけない」と教えるいっぽうで、
ぜいたくとはこんなものだということも教えてきました。
子どもたちが大学へ行く年ごろになったら、
ヨーロッパにもアメリカにも、
外国旅行にどんどん連れて行き、
一流ホテルに泊まり、
ミシュランのガイドブックで出てくる
三つ星のレストランで食事をします。

この話をすると、たいていの人が、
「そんなぜいたくをおぼえさせていいのですか」
と驚いた表情を見せますが、
これが子どもの「人生の肥料」になります。

もういずれも一人前のオトナになりましたが、
いまでも子どもたちは、
ときどき、世界旅行の楽しかった思い出話をします。
もうこれ以上のぜいたくはないというぜいたくをしましたから、
たとえホワイトハウスに招待されても
ビクついたりしないわねと笑っています。
そのレベルでモノを考えれば、
仕事だってそのレベルでやらないわけにはいかないでしょう。





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2013年5月21日(火)

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