死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第62回
職住接近がはかれれば、お金も貯まりやすい

サラリーマンにとって、通勤時間も拘束された時問です。
これが、時間の上手な利用法を考えるうえで、
たいへん重要な問題のはずなんですが、
意外なほど、みなさん無頓着なんですね。

東京の会社に勤めるサラリーマンで、
二十三区内に住んでいる人は、二割くらいではないでしょうか。
五、六百人の会社で、環状線内に住んでいるのは
三、四人しかいないという話を聞いたことがあります。

あとは東京の郊外というより、
他の県から通勤しているわけです。
なぜ、遠くに住むようになったか。
ひとつには、人間にはむかしから、土を踏みたい
という願望があります。
とりわけ日本人は、その傾向が強いので、
家といえば、まず庭付きの二戸建てを考えてしまう。

狭いながらも楽しいわが家で、花壇をつくったり、
植木をつくれるような家に住みたくなるわけです。
もちろん、都心に近ければ、土地も高いし、
ちょっと手が出ないから仕方なくという場合も多いでしょう。

しかし、通勤する人は、往復三時間も四時間もとられる。
指定席みたいにちゃんと座れれば、本も読めるし、
拘束された時間の利用法もあるんですが、
満員電車ではとてもできません。
ただ、押したり押されたりでしょう。

こうした遠距離通勤は、肉体的疲労もさることながら、
時間の浪費もたいへんなものです。
ムダな時間が多ければ、それだけお金をムダにするのと同じです。

私は、もともと職住接近がいいという考え方なんです。
通勤に二時間かかる郊外より、たとえ一部屋少なくとも、
一時間以内で通えるところに住んだほうがよい。
それよりは、三十分で行けるところのほうがもつとよい。

人生の生き方や考え方は人それぞれですから、
私の考え方をすべての人に押しつけようとは思いませんが、
ただ、どんな人にも与えられた時間は同じ。
その時間を最大限に有効に使うことも、
人生を充実させる方法のひとつではないですか。

もっとも、郊外に庭付きの一軒家を建てることが、
お金を貯める最終目標というのなら話は別ですが。

二十年ほど前に、私の会社の人が
横須賀に家を建てたことがあります。
私は「やめたほうがいいよ」と忠告したんですが、
「海の見えるところで、空気もきれいだし」
と言って聞かなかったんです。
でも、実際に住んでみたら、やっばり通勤にネを上げて、
結局、池袋の親の家に戻ってきました。

これは、その人だけが我慢できなかった
ということじゃないと思うんです。
同じような現象がふえているんですね。

一時は、都心に住む人が少なくなって、
ドーナツみたいにアナが空いていたんですが、
高層建築がつぎつぎとできるようになってから、
すこしずつ還流しているようです。
それだけ、時間の使い方に
合理性を求めるようになってきたからです。





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2013年6月3日(月)

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