死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第65回
四十歳になって百万円貯めるのは至難の業

年をとってくると、経験を積んだ分だけ、
何をするにも用心深くなります。
一般的に言えば、お金を貯めるのも同じで、
若いときよりは着実な形をとるようになるのがふつうでしょう。

若いうちは、時間はあり余るほどあるけれども、
元手が少ないから、
当然、運営の仕方にも限度があると思うんです。
その点、年をとれば、いくらかでも元手がふえますから、
いろいろな可能性が出てきますが、
いっぽう不利な要素がないわけではありません。

歳をとれば、だいたい、何やかやと忙しくなります。
残された持ち時間もだんだん少なくなってくるので、
焦りも生じてきます。

いっぽう、若い人は、たとえ失敗しても、
やり直すチャンスがありますから、
思いきったことができるんです。

よく若気の至りといいますが、
これは、私の感じでは、四十歳までじゃないでしょうか。
四十歳までなら、職業でも利殖でも、
積極的に挑戦していいのではないかと思います。

私なんか、六十になっても、
いまだに冒険しているつもりですが、
三十代でやった冒険と
五十代でやる冒険とはやっぱり違うようです。
配慮の仕方が違うんです。
三十代だったら、上ばかり見ている。
足元を踏みはずしてもあまり気にしない。

四十代、五十代になると、
万一失敗したらどうなるかを考えるようになる。

だから、自分では冒険のつもりでも、
はたから見れば、消極的とか保守的とかの傾向が出てきます。
同じ年齢の人に比べれば、
かなり積極的なはずでもやっぱり保守的になりますね。

しかし、お金を貯めるにしてもふやすにしても、
やっぱり積極的にやらないとうまくいかないものなんです。
研究心が旺盛で、なおかつそれを実行する習性がないといけない。
歳をとってくると、
そういう意欲やエネルギーが、いつのまにか衰えてきます。

さらに、四十代にはいると、
ほかのマイナス要因も出てきます。
たとえば、子どもが大学にはいるのにお金がいる。

その程度の出費に
ものすごく苦痛を感じる人が少なくないでしょう。
そうした年齢になってから百万円貯めるのは、
たいへんです。

そういう人は、二十代、三十代に、
ぜんぜんお金を貯めていなかったということでもあるんです。

ある程度、お金を貯めていれば、
入学金にはこの預金を使えばいいとか、
あるいは、この株を売ればいいとか、余裕があります。

一般の家庭でいろいろ出費がふえてくるのは、
通常、四十代にはいってからですが、
そのときから始めるのでは、もう遅いとも言えるんです。





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2013年6月6日(木)

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