死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第96回
家は”買うより借りる”時代になった

これまでたいていの日本人は、マイホームといえば、
ともかく土地付きの家を持つことと考えつづけてきました。
ところが、最近になって、
住宅もレンタルのほうがトクだという考え方が
強くなってきています。

いちばん大きな原因が土地が高くなったことです。
土地が、庶民の手に届かないほど高くなってしまったからです。

バブルの狂乱のあと下がったといっても、
何年か前に戻ったにすぎません。
土地の値段が、もうこれ以上高くならないと
言っているわけではありません。
まだ貨幣価値の変化によっても上がることはあるでしょうが、
むかしみたいに、土地さえ持っていればいい
という時代ではなくなったのです。
必然的に、持ち家の価値が見直されるようになりました。

いちおう日本全体に住宅がふえて、
世帯の数を上まわるようになりました。
となれば、いま住んでいる家のほかに、
もう一軒買おうという人は少ないわけですから、
マイホーム時代とは状況が変わってきています。

新聞の広告を見てもわかるように、
マイホーム用の新築はふえていません。
その代わりに賃借用のための新築がふえています。
つまり、土地を持っている人が、
それを活用するために借家を建てることはあるけれど、
土地付きの家屋あるいはマンションを買う人が
少なくなったということです。

地主のほうも、残り少なくなった土地を手放したくない。
郊外の地主というのは、たいてい農業ですから、
土地に対する執着が強いんですね。

十四、五年前に四千万円で買った郊外の家が、
いまは七千万円くらいになっている。
住み慣れた家ですし、
おれは苦労してひと財産つくったんだ
という気持ちもありますから、
引っ越しなんて考えてみたこともない人が多いでしょう。

しかし、サラリーマンの場合、
転勤という厄介な問題が出てきます。
やっとローンを払い終わったわが家を売りたくない。

子どもの進学問題がからんできたりすると、
単身赴任ということになります。
理解のある会社は、単身赴任手当と称して、
月に一回か二回、自宅に帰る交通費を出している。

赴任先の住居も、会社が家賃を払ってくれますが、
そうは面倒を見てくれない会社もあるわけです。
そうなれば、費用もかかるから、
一家で引っ越さなければなりません。

家は売りたくないし、
いずれは東京へ帰ってくるだろうからと貸すことにする。
これがまた心配のタネなんです。
貸したはいいけれど、帰ってきたとき、
すんなり明け渡してもらうにはどうしたらいいか。

あるいは、貸したら家を相当汚されるんじゃないか
という心配もあります。
ともかく、借り手も見つかったし、何力月か前に通告すれば、
明け渡すという契約も交わした。
これで一件落着というわけにはいかないのです。





←前回記事へ

2013年7月9日(火)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ