死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第4回
「土一升、金一升」から「尺金寸土」へ

こうして見ると、アジアでは、
韓国が僅かにオリンピック景気に支えられて
地価が下落していないほかは、
すべて値下がりと不況に悩まされており、
ひとり日本だけがダントツに
不動産ブームに沸いていることがわかる。

もっとも日本で土地があがっているといっても、
全国的なブームになっているわけではない。
あくまでも東京の、それも都心部だけに限られており、
それが都心部の商業地域から同じ都心部の住宅地域と、
大阪、名古屋、札幌、仙台、福岡のような
百万都市の中心商業地域に
やっと波及しはじめているていどである。

また東京に坪一億円の地価が出現したといっても、
三百坪の土地が三百億円で取引されたといったことではない。
東京の土地は細分されて所有されているので、
ビルを建てようと思えば、
細分されたものを買い集めて二百坪とか、
三百坪にまとめなければならない。

こういう仕事は地あげ屋さん
といわれる人たちが専門にやっている。
地あげ屋さんは、まずこれはというところ、
それも大きなところから話をつけて行く。

裏通りに面したところなどは、
それだけではあまり値打ちがないし、
建ぺい率も悪いから、値段は安い。
反対に表通りに面した十坪とか、
十五坪で、それが買った地所の真ん中にあったりすると、
真ん中を虫食いにしておくわけにはいかないから、
どんなに高いことを言われても
相手の言いなりになるよりほかない。

坪一億円とは、そういう十坪か、
十五坪に対して支払う代金が、
遂に坪当たり一億円に達したということであって、
全部の土地に一億円が支払われるわけではないのである。

しかし、虫食いを埋めるためとはいえ、
一坪の土地に対して一億円の値がつくことは、
驚くべきことだし、記念すべきことでもある。

日本では土地の高いことを
「土一升、金一升」というが、
中国語では「尺金寸土」という。

それが昔の上海や香港の地所に対する形容詞であったが、
日本の土地の高さはそれをさらに上回ってしまったから、
「尺金寸土」と表現を変えたほうが
適当なのではないかと思うほどである。

昭和六十年に一億円で取引をされたのは、
銀座のもとのクラウンというキャバレーの隣接地と、
それから青山通りの伊藤忠本社のすぐ近くであるときかされた。

いずれも小さな面積で、それが手に入らないと、
ビルがいびつになってしまうため、
泣き泣き支払ったものである。

ところが、年末になると、
銀座のソニー・ビルの近くで
坪一億二千万円の取引が行われたという情報がとびこんできた。

それも三十何坪という一応はそれだけで小さいながらも、
一軒のビルが建つ面積だったから、
日本の最高の土地の価格は
一億円という基準は定着したことになる。

一体、どうしてこんなことになったのであろうか。
どうして日本の地価は世界一になったのであろうか。
それは私たちの生活にどういう影響を及ぼすのであろうか。

また東京で起こったことは、
地方都市にも波及するものなのか。

もし波及するとしたら、
どんな波及の仕方をするのであろうか。

今まで財産として土地を持ってきたが、
今後も土地を持ち続けるのが正しいのだろうか。
反対に土地を持たない人は、
もう永遠に財宝の神様から見離されるのだろうか。

考えて見ると、土地は私たちの財産の中で、
最重要な地位を占めているので、
その動向がどうなるかによって
私たちは大きな影響を受ける。

なかでも将来の値上がりを見込んで、
返しきれないくらい借金をしている人にとっては、
賭けに勝つか、それとも、負けて全財産をつぶすか、
の分岐占一に立っているようなものである。

東京の土地が世界一になったのは、
もとより日本経済の実力が世界一になったことと関係がある。
日本の土地を外国の人はほとんど買わない。
日本の登記制度は非居住者が
日本の土地を買うことができないようになっているし、
日本に永住している外国籍の人々を除けば、
日本に駐在している外国人でも、
また外国の会社でも、よほどのことがなければ、
日本で不動産を買うことはない。

したがって、日本の土地や不動産が高くなったのは、
いずれも日木人によって買い上げられたものであって、
不動産に関する限り、株式市場における外人投資のような、
外国人による影響はほとんどないのである。

しかし、それでも日本の不動産の値上がり、
とりわけ東京における土地の暴騰は
外国人の動向とかかわりがある。
というのも、日本の経済力が
全世界から認知されるにしたがって、
お金が日本へ集中するようになり、
東京が世界的な国際金融の中心地になりつつあるからである。





←前回記事へ

2013年7月21日(日)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ