死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第5回
国際的な実需による値上がり

かつて六十年前は、
ロンドンが世界的な国際金融の中心地であった。
世界中のお金がいったんロンドンに集まり、
ロンドンからまた世界中に流れた。

ところが、大恐慌を境として、
国際金融の中心地がロンドンからニューヨークに移り、
金の代わりにドルが国際通貨の役割をはたすようになった。
それが、ここへ来て、
アメリカ経済の凋落が激しくなり、
ドルの濫発により国際通貨としての
ドルの信頼性もすっかり落ちてきている。

これは私の予想だが、
ドルが世界通貨として金の代役をはじめたのを奇貨として、
アメリカがドルの濫発、
またドル建ての信用の濫拡大をやってきたために、
今後いっそうドルに対する信用が失墜することは目に見えている。

だから何らかのきっかけで
ドルから他通貨への逃避が盛んになるときがくると思われるが、
ドルの暴落が起これば、
おそらく他のすべての国の通貨も含めて
紙幣に対する信用は大幅に低下するであろう。

したがって円だろうと、マルクだろうと、
ドルに比べれば、相対的に強い通貨でも、
現金以外のたとえば株とか不動産への
換物連動が盛んになることが予想される。

しかし、ドルへの不信感が強くなった分だけ、
また日本経済の実力が認知された分だけ、
世界のお金はニューヨークから東京へと流れを変えてくる。

そうしたお金を狙って世界中の銀行や
証券会社や保険会社などの金融機関が
続々と東京へ集まってきたら、
それだけで東京がいつの間にか
世界的な国際金融の中心地になってしまう。

四十年前、敗戦で焼野が原になった東京では
まったく想像もできなかったようなことが
現実に起こりつつあるのである。

というわけで、
海外から金融機関が乗り込んでくることは
ほとんど既定のコースになっているが、
それらの金融機関が乗り込んできても、
東京の中心部にはそれらの会社を受け入れるオフィスの
スペースが見当たらない。
丸の内のビル街は、ロンドンやニューヨークと違って
どこも満室で、オフィスの賃貸料も、
坪当たり七万五千円という高値のものまで出現している。
それでも二百坪とまとまったスペースは見つからないから、
もし新しいビルを建てて坪当たり八万円の家賃でも、
たちどころに満室になってしまうくらいの実需があるそうである。

「だから、東京の土地が高いのは、
実需に支えられているのですよ。
これから二十一世紀に向かって、
東京に国際金融の中心地が移ってくるとしたら、
霞が関ビルくらいの大きさのものが
まだ三十杯くらいは必要だと一昌われています」
と不動産の専門家たちは言う。

「ただし、坪当たり三千万円とか、
五千万円とかといった時価で上地を購入して
新しいビルを建てて貸ビル業をやっても、
まず十五年は赤字になります。
中央区、千代田区、港区の三区で、
こうしたビルを建てる実力を持った不動産会社は、
三菱地所、三井不動産、住友不動産の三社しかありません。
それらの大手不動産会社でも引き合わないとしたら、
東京の土地はもう、
のぼりつめるところまでのぽりつめた
と見ていいのではないでしょうか?」

はたしてのぼりつめるところまできたのかどうかは、
まだ誰にも何ともいえない。
しかし、東京の中心部の不動産が実需を背景にして
暴騰したことは事実だし、
それが世界における日本経済の実力を象徴するものであろうことも
間違いない。

と同時に、この不動産の動きによって
東京と地方の地価に大きな格差が
できてしまったこともはっきりしている。

こうした情勢をふまえながら、
今後、不動産がどうなって行くのか、
を知ることは私たちの財産形成上、大切なことであろう。





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2013年7月22日(月)

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