死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第6回
坪一億円の土地でも採算にのる

地価の高さはその地域の経済の繁栄を示すものである。
その意味では、東京の中心部の地価が
坪当たり一億円を呼ぶようになったのは、
日本経済の強さを物語るものと考えてよいだろう。

しかし、坪当たり一億円の土地を購入して
その上に建物を建てて不動産賃貸業をやっても引き合わない。
だから、一億円払ってビルを建てる
不動産業者は一人もいない。

ただ家賃をもらったのでは引き合わないが、
そこにビルがあることで広告になるような業種の場合は、
広告価値を考えてお金を払う場合もある。

また賃貸しをしたのでは引き合わないが、
自分で営業するのなら、
採算にのるという場合も考えられる。

たとえば、銀座の土地が一億円で取引されたとき、
秋葉原で電気店をやっている知人にあったら、
「もし秋葉原駅前で坪一億円の土地があったら、
僕は買いますねえ。
駅の真ん前のほんの一角だけですが、
あすこなら一億円出しても引き合いますよ」
とその社長さんは言った。

おそらく普通の商売ではとても採算にのらないが、
電気屋の街の、そのまた中心部だから、
商売のやり方次第ではある程度の回収が可能なのであろう。

しかし、その場合でも元金の返済までできてしまう
ということではなくて、
かりに五十坪を五十億円で買って、
年に七%として三億五千万円の利息が払えるということである。

その土地からあがる収益で
それだけのカバーができる商売は
そんなにたくさんあるわけではないが、
全部カバーできなくとも、
ほかに利益のあがっている企業なら、
五十億円ポンと払うことは考えられる。

というのは個人ではどうにもならないが、
会社であれば、ほかであがった利益を
利子の支払いに充当することができるからである。
支払利息は経費として計上され、
利益から控除される。

したがって、法人税を六〇%とすれば、
三億五千万円のうち六〇%は
税金に支払うべきお金で支払われたことになり、
一億四千万円だけが利益として
計上されるべき金額の中から支払われたことになる。

もし五十億円の土地が二割値上がりすれば、
含み資産の十億円は支払利息の金額を遥かにオーバーする。

そういうことが過去においてくりかえし起こっており、
今後も起こり得ると期待されている。
だからこそ法人の土地投機は絶えないのだが、
その土地で商売をやっていくらかでも
利益をもたらすことができれば、万々歳である。

現に秋葉原で電気屋をやっている
私の知人は売上げに対して一〇%の利益率を計上しているが、
もし秋葉原駅前で年に五十億円の商売ができたとしたら、
少なくとも五億円の利益を見込むことができる。

三億五千万円の金利を払っても
まだおつりがくることになるから、
建物の減価償却部分を銀行の返済にあてるていどであっても、
含み資産の値上がりは充分に期待できる。

その人の場合はほかに
年に三十億円ていどの利益計上をしているから、
税引後の利益金で五十億円の元金の返済をして行くことは
そんなに難しいことではない。

おそらく私が銀行の融資部長だったとしても、
もとめられれば、ニつ返事で融資に応ずるだろう。

東京中の日ぼしい土地が金持ちの会社の手に移る動きは
大体、以上の図式の通りだと思えば間違いない。
なにしろ税制が企業の含み資産づくりの
手伝いをしてくれるのだから、
土地の将来がまったく暗澹たるものである
という見透しに変わらない限り、
お金の儲かる会社が毎年のように土地を手に入れようとして
鵜の目鷹の目になる動きは変わらない。

ことに昨今のように、
設備投資が低調になり、
年々、付加価値の創造によって
余ってきた資金を生産に再投資するチャンスが少なくなれば、
それは投機資金化して株と土地に集中する。
一坪一億円になったのも、
そうした動きの一環と見れば、驚くほどのことではない。





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2013年7月23日(火)

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