死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第7回
めぼしい土地は企業の手に

しかし、こういう動きが今後も続くとしたら、
一体、地価の将来はどうなるのであろうか。
まず第一に考えられることは、
日本国中の財産価値のある土地が
個人の手から法人の手に移ってしまうだろうことである。

私などが持っている土地の中にも、
買ったときは坪五十万円で、
今は五千万円なら右から左へ売れてしまう土地がある。

私の場合は、将来、相続の問題が起こったときのことを
あらかじめ考慮に入れて、
はじめから法人所有にしておいたが、
個人名義で所有している人は多いだろう。

親から財産として相続した人は
それを法人化するチャンスがなかったから、
いずれも個人名義になっている。
そういう人に相続のチャンスがおとずれると、
莫大な相続税がかかってくる。

相続税はいわゆる路線価格に対して課税されるから、
時価五千万円の土地でも、
多分、千五百万円か、二千万円くらいなものであろう。
それでも百坪相続すれば、十五億円になる。

五億円超は七五%の税率だから、
相続税だけで十億円ということも考えられる。
もし相続した百坪の上にビルが建っており、
毎月、かなりの定期収入をもたらしてくれておれば、
相続税を長期分割払いにして
十五年にわけて支払うことはできるが、
もしそれが自宅であったり、空地であったりしたら、
相続人としては財産を処分するより
ほかに方法はなくなるであろう。

しかもその場合、土地を売却すると、
路線価格を原価と見て課税するのではなくて、
親が購入したときの原価を基準にして、
相続税分をコストに加え、長期譲渡か、短期譲渡か、
それぞれの実情に照らしあわせて課税をするから、
相続税のほかに、まず所得税がかかってくる。

親から莫大な財産を相続した人は、
相続税の微税令書を受け取って見ればわかることだが、
土地を売る以外にほかに選ぶ道はなさそうに思えてくるのである。

したがって相続のあるたびに、
目ぼしい土地は個人の手から法人の所有に移る。
法人は個人と違って倒産でもしない限り死亡することはないから、
法人の所有に移った土地は売りに出されることはない。

ただし、法人が業績悪化して
含み資産で補填しなければならなくなれば、
土地は売りに出される。
売買を目的に所有されている土地も、
もちろん、値上がりすれば売りに出される。

しかし、その場合も買うのは法人だから、
土地の売買は個人の住む住宅とか、
マンションなどを除けば、
そのほとんどが
法人間の売買に移ってしまうことは間違いないのである。

第二に、地価の暴騰はまず都心部の商業地域からはじまったが、
それは経済の構造に根ざしたものであるから、
やがて全国に伝染波及して行くだろうということである。

三年ほど前、私は私のところへ集まってくる実業家たちに、
これからは賃貸用の不動産を中心とした動きになるから、
都心部の商業地域の土地をお買いなさいとすすめたことがあった。

私の発言の根拠は、
すでに居住用不動産が
世帯数を五百万戸もオーバーするようになったから、
マイホームづくりは下火になる。

今後不動産に投資をする人があるとすれば、
投資向きが中心になるから、
商売のできるところや事務所のできるところがいい、
といったのである。

別に私が言ったからそうなったのではないが、
都心部の土地が坪当たり五千万円まであがってくると、
地方都市の中心部の地価の安さが目立つようになったし、
また同じ都心部の住宅地の地価の安さが目立つようになってきた。

そこで私は二年ほど前に、
都心部の地価があがったのは、
東京が世界の国際金融の中心地になりつつある前兆と
見ることができるが、
青山通りが坪五千万円で、
御堂筋が坪五、六百万円では安すぎるから、
近いうちに水準訂正が起きるだろうと言った。

また青山通りが五千万円で、
青山の横町を五十メートルか、
百メートル入ったところが坪三百万円ではバランスがとれない。

おそらく次は東京都内のムードのある
住宅地域の地価があがる番だろうと言った。

結果はいずれもその通りになった。
御堂筋も最近では坪当たり五千万円というのもあるそうだし、
松濤や南平台や田園調布や成城でも
坪当たり一千万円以上というのが珍しくなくなってきた。

一種住専の地域で、坪当たり一千万円というと、
採算を踏みはずしているなどといったていどの脱線ではない。
過去の常識では測りきれないような
理不尽なことが起こっているのである。





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2013年7月24日(水)

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