死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第8回
土地とマンション値上がりのズレ

第三に、一年ほど前から私が言っていることであるが、
この次は個人が住宅にしているような
都心部のマンションが
地価の暴騰に見あった形で
値上がりをするだろうということである。

日本では大都会の商業地域の表通りに
マンションを建てる傾向はあまり見られない。
表通りは、商業ビルでなければ、
ホテルやショッピングセンターが多い。

マンションはその横町の通りか、
でなければ、一本裏の通りになっている。
地価の値上がりはまず表通りからはじまったが、
この二年のうちに横町や裏通りにまで飛火してきた。

いまの地価でマンション用地を購入して
マンションを建てようとすると、
マンション業者は坪当たり七百五十万円で売らなければ
採算にのらない。

ところが、いま東京の都心部で売りに出されているマンションは
坪当たり三百万円で手に入る。
これらのマンションは三年前、
まだ地価が今日ほど暴騰していなかった時期に、合意されたり、
取引されたりしてスタートしたものであり、
三百万円で売っても業者としては十分、採算にのる物件である。

しかし、これと同じものを今から建てようとすると、
七百五十万円以上でなければ成り立たない。
とすれば、今、現に売り出されているマンションは
割安ということになる。
少なくとも今、売られているマンションが
全部売り切れてしまったら、
もう新しいマンションの供給は途絶えてしまうことになる。

土地の値上がりとマンションの値上がりに
これだけの時間のギャップがあるということは、
土地の値上がりに乗り損なった投資家にとっては、
絶好のチャンスというべきではなかろうか。

坪当たり三百万円でも
庶民の手の届かない距離にあるのに、
坪当たり七百五十万円なんて、
そんな常識っばずれのことがあってたまるか、
と考える人がいるかもしれない。
そういう人は坪当たり三百万円のマンションも
買わないほうがいいだろう。

しかし、世界的に見て、
紙幣に対する神話が崩壊寸前にあり、
ドル安どころか、円だってあまりあてにならない
ということになれば、
土地も株もさらに暴騰を続ける可能性がある。
現にその徴候は、アメリカにも、日本にも起こってきている。

そうした時期に、土地はあがる方向なのか、
それとも下がる方向なのか、
皆さんはどちらに賭けますかーということになると、
さて、皆さんはどういう答を出しますか。

もちろん、
「どちらにも賭けません、私は貨幣のごとく中立を守ります」、
という答えもあってかまわない。
冒険を好まない、安全第一の人は
何にも手を出さないという方法がある。
しかし、土地はあがった水準にそのまま定着するだろう。
あるいは、さらに上昇するだろうと見る人は、
もはや土地はあがりすぎて手が届かないとしても、
マンションの値上がりに
うまく相乗りすることができるのではなかろうか。
少なくとも土地とマンションの値上がりのズレを
うまく捉えるチャンスはまだ依然として残っているのである。

私はそういう見方をしているので、
昨今も今年になってからも、
新しくできあがってきた都心部のマンションを何軒か買った。

私の家で買ったマンションは、
居住用の、それも比較的高級なマンションであるが、
もちろん、都心部のワンルーム・マソションであっても
さしつかえない。

要するに、社会的な需要があって、
今後も十分、借り手の現れる見込みがあれば、
価値は保証されているようなものである。

ついでに申せば、郊外の土地つき住宅と
都心部のマンションの値打ちに次第に格差がついてきている。
「土地さえ持っておれば大丈夫だ、 必ず値上がりをする」
という土地の神話が長く信じられてきたので、
多くのサラリーマンは郊外に住宅を求めたし、
東京の発展を見てもわかるように、
ある時期、いわゆるドーナツ現象が起こった。

ところが、郊外へ、郊外へ、と住宅地域が広がり、
世帯の数より住居の数が多くなると、
住宅用地への需要が減少するようになり、
郊外の土地の価格が値下がりをするようになった。

逆に都心部のマンションが値上がりするようになったのは、
第一に交通至便なことを重視する傾向が強くなったからであり、
第二に都心部のマンションはオフィスなど
多目的の使用が可能だからである。
そして、第三に都心部には稀少価値があるからではないかと思う。





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2013年7月25日(木)

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