死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第9回
買えるマンションの条件

したがってマンションであれば、
どれでも値上がりするということではなくて、
需要のあるマンションであるかどうかがまず問題である。

せっかく、東京でマンションを買うのに、
江東区とか、葛飾区にマンションを買う人がある。
また池袋の先とか、八王子の先とか、
横浜の先に買う人もある。

同じ東京でもムード的に先端を行っているところもあれば、
地盤沈下、人口減少で頭を抱えている地域もある。

マンションは、部屋が狭くても
ガマンして住む気を起こさせるほど交通が至便であるとか、
ムードがよいとかいった条件がどうしても必要なのである。

したがってまず第一はロケーションがよいことである。
私はそれを赤坂と新宿と渋谷を結びつける
三角地帯内にあることを条件とした。

この地域にあれば、少々くらい古くなっても、
また少々賃料が高くても、空室になる心配はまずない。

もっとも、これだけマンションが普及したのだから、
いつまでもこの三角地帯に固執するのは
酷であると思う人もあるかもしれない。

もう少し縄目をゆるめれば、
環状線の神田から南回りで
池袋までの間で駅から徒歩で行ける範囲内、
中央線なら西荻窪あたりまで、
私鉄なら、東横線、井の頭線、小田急線の
なるべく渋谷、新宿寄りの一帯ということになろうか。

第二にどういう開発業者が売り出したものであるか、である。
マンションのメーカーには、一流の不動産会社もあれば、
三流の建築業者もある。
またマンション建設だけを専業とした一流の開発会社もある。

あの会社が企画したものなら、
まず間違いなかろうと買手を安心させるメーカーもある。
メーカーによって売出価格に違いがあるが、
高いマンションには必ずそれだけの理由があるものである。

第三はどういう建設会社が工事を請け負っているか、である。
一流の建設会社が請け負っておれば、
それなりの水準にあると考えてよい。
反対に名も知れない建設会社なら、
あとで修理上のトラブルが多いことを
覚悟しなければならないだろう。

一流企業とそうでない企業とでは建築費に
一割五分から二割くらいの差があるが、
それが必ず売値に現れている。

私自身、長い間の経験で
遂に一流建設会社に頼むようになったくらいだから、
高い建設費にはそれなりのメリットがあるというよりほかない。

そして、最後に、マンションの管理システムが
うまくできているかどうか、である。
管理人のこともあるし、掃除や修理が
どういう具合にできているか、ということもある。

十年もたってみると、
そうした管理上の差が歴然と現れてくるのである。

以上四つの点を頭に入れてマンション選びをする。
東京都内のよい場所にあって、
坪当たりの売値が三百万円前後で手に入るマンションで
かつ一流の建築物であるという条件が備わっておれば、
少なくとも昭和六十一年のいまの時点では、
よい買物になると考えてよいだろう。

のっけからマンション業者の
肩を持ったような話になってしまったが、
これはこの連載を書きはじめた時期が
ちょうど六、七年ぶりの
グッド・タイミングに遭遇しているからである。
こんな時機は十年にーぺんか、
二へんしかないものといってよいであろう。





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2013年7月26日(金)

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