死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第17回
転勤族のマイホーム

サラリーマンのマイホームづくりを左右する
もうーつの大きな要素は「転勤」である。
「転勤」は会社勤めにつきものの
「言うに言われぬ苦しみ」のーつである。

二年にーぺん人事異動をする会社もあれば、
三年にーぺんというところもある。
それこそ辞令一本で、札幌から福岡に移ることもあれば、
大阪からニューヨークに行かされることも起こる。

辞令一本で木人のみならず、
家族の生活環境も運命も一変してしまう。
これほど他動的な生活は誰しも望んでいることではないが、
「転勤」がなければ「出世」もないのだから、
サラリーマンをやっている以上、木人に拒否権はない。

とすれば、現役である間、
サラリーマンのマイホームづくりは、断念するか、
中断するよりほかない。

東京や大阪に勤務している間に、
マイホームづくりをしているサラリーマンの姿はよく見かける。
そういう人でも、転勤が発表されると、
折角、つくりあげたマイホームが役に立たなくなってしまう。

親戚に住んでもらったり、人に貸したりしているが、
帰ってきてはたしてまたその家に住むようになるかどうかは
ご本人にもよくわからない。
多分、住むようにはならないだろうと私は推測する。

なぜならば、また東京に住むようになるまでには
何年かかるかわからないし、
その頃には社会的地位も違っているし、
家族の構成にも大きな変化が起こっているだろうからである。

つまり海外に勤務するほどでなくとも、
国内を転々とするサラリーマンのマイホームに対する立場は、
定年後、外国に
居を構えることになった人々の立場と類似している。

外国や地方の都市で家を建てようと思えば、
東京で建てるよりはずっと安くできる。
しかし、いくら安くても
いつまで住んでいるかわからないところに
家を建てるわけには行かない。
やむを得ないから、転勤先では家を借りて住む。

しかし、それでは定年になってから
あと住むところのことが心配になるし、
それまで財産をどう運用していいのかということも心配になる。
そういう人は、帰るべき家を持っているよりも、
賃貸用の不動産を持っておれば、収入もあるし、
不動産の値上がりもあるし、万一、自分の家がなくとも、
賃貸用の不動産を売れば住む家は簡単に手に入るし、
そもそも不動産を処分しなくとも、
その収入で家を借りて住むには事欠かないのである。

自分の家に住みなれた人にとっては、
借家に住むのは落ち着かないかもしれない。
しかし転勤族はもともと「八紘一宇」の精神の持ち主で、
どこも自分の家のようなものだから
家を借りて住むことにはなれている。

「東京に帰ってきたのだから」、
あるいは「大阪は自分の故郷だから」と言って、
故郷ではマイホームに住まないといけないという論理に
固執したりはしない。
あちこち動きまわっている人にとって
「ふるさとにマンション住まいや蜆汁」
であっても決しておかしくはないのである。





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2013年8月3日(土)

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