死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第18回
人の流れが発展と停滞をきめる

私は講演のために日本国中を飛び回っている。
どんな田舎でも頼まれると、
時間のゆるす限り行くことにしている。

地方に行くと、まず人ロがどのくらいあって、
その人ロがふえているか、減っているかきく。
一般に、人ロのふえている町より減っている町のほうが多い。

次に、町の産業は何か。 どんな工場があるのか。
町のメインの産業の景気はどうか、といったことをきく。
この町の主な産業は、
「船だからダメです」「鉄だからダメです」
「繊維だからダメです」「漆器だからダメです」
「玩具だからダメです」「洋食器だからダメです」と
ダメな産業がやたらに多い。
要するに何でもダメで、ダメでない製造業はほとんどない。

製造業はほとんど曲がり角にきていて、
新しい起死回生の大変身でもやらない限り、
滅びてしまうのではないか、と思いたくなるほどである。

第三に、そうしたピンチの中で、
誰が町で一番金まわりがよいのか。
その人は何という名前で、どんな商売をやっているのか、
ときいてみる。
どこの町に行っても、一番金まわりの良い人は、
その町の出身者でなく、必ず他所者である。

しかも、その人の従事している業種は、
その町のメイン産業とは関係がない。
この町は、人形づくりの町、この町は、洋食器の町、
この町は、縫製加工の町、といった特長があるが、
一番金まわりのよい人はたいてい、
その町の伝統的な産業とかかわりのない、
新興業種に属している。

ということは、
どこの地方にも町全体を変えてしまうような変化が
押し寄せているということであり、
既存の業種はほとんど飽和点に達して、
先行き望みが持てないことがわかる。

最後に、町の一番賑やかな、
たとえば、駅前繁華街の土地は一坪いくらくらいしているか、
また住宅地は坪当たりいくらしているか、きいてみる。
もちろん、東京のように高い地所はどこにも見当たらないが、
市長さんや町長さんや
あるいは、町の経済界の実力者の回答をきいていると、
それぞれ微妙なニュアンスの違いがあって面白い。

「この町の土地は、案外、 高いんですよ。
山と海に挟まれていて、平地が少ないでしょう。
ですから住宅地でも坪三十万円もするんですよ」

「ここは、意外に交通の便利なところでしょう。
名古屋の中心部に出るのに、三十分とはかからないのに、
地価はたったの四十万円ですよ。
昔は、ほんとに交通の要所に位置していて
栄えたところなんですが、
古い家がギッシリ詰まっていて、
なかなか立ちのこうとしないから、サ
ラリーマンの人たちが敬遠して
駅を通りこして隣の町に行ってしまうのですよ」

「駅の裏にスーパーができて、
人の流れがすっかり変わってしまいました。
駅前の商店街は人通りがまばらになってしまい、
商売が成り立たないものですから
土地を売りたい人ばかりです。
そうですね、坪百万円でも買手はないんじゃないですか。
それに比べると、スーパーの近くのバス発着所の周辺が
今は一番でしょう。
この間、二百万円で土地を買った人があります」

「この町はサラリーマンの人ばっかりふえましてね、
朝早く出て行って、夜遅く電車に乗って帰ってくる。
家は寝るだけのところですから、
いくら人口がふえても、
商店街にはさっぱりお金をおとしてくれません。
サラリーマンはこの町の嫌われ者ですよ。
でも土地は上がる一方で駅から歩いて
二十分以内は坪三十万円以下では手に入らなくなりましたね。
十年前は五、六万円もするかしないかだったのですが、、

以上の断片的な回答をきいただけで、
それぞれの町の発展ぶりや停滞ぷりが手にとるようにわかる。

坪十万円以下の土地は、
日本国中、どこにもなかなか見当たらなくなってしまった。

ちょっとした小都市ならどんな遠隔地に行っても、
大体、坪三十万円が相場になってきている。
しかし、同じ三十万円でも、
三十万円でもう頭打ちだろうと感じられている土地もあれば、
さらに一段と高くなるのではないかと思われている土地もある。





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2013年8月4日(日)

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