死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第24回
個人が狙える不動産は

このことは、住宅地を買う場合にも、
同じようにあてはまる。
青山通りでも、六木木でも、
田園調布や成城学園でも、地価が一千万円とか、
二千万円に値上がりをした住宅地は、
またもとの一戸建ての住居として使われることはほとんどない。

建ぺい率の比較的高い地区は、
マンションが建てられるが、
一種住専などという地域は、
店舗として使用可能なところを除くと、
ほとんどが仮需要で占められている。

転売するための値上がり待ちか、
でなければ、建ぺい率の改正待ちなのである。
したがって、そのぶんだけ居住者は
これらの地域から追い立てを食うが、
追い立てを食った者は郊外に出るか、
いっそ地方都市に引っ越してしまうよりほかないであろう。

「営業用資産の買換え」の場合は、
二十三区以外の郊外の土地に移れば、
税金は免除される。

少し前までは、土地を売って償却資産に変わることもあった。
二千万円していた土地が二億円になり、
二億円新しく借金をして土地を買い、
土地を売った代金の二億円
ビルの建築費に回せば、買換えも可能であった。

ところが、土地が高くなりすぎて
新しく買う土地に払う二億円を借金すると、
利息を払うのに四苦八苦するし、
一方、土地を売った代金二億円を
建築費に回してもおつりが来てしまうから、
税金を払わなければならなくなる。

おかげで、土地を買って償却資産に変える人は
いなくなってしまった。
やむを得ず、郊外の新しく発展している
衛星都市の駅前地所などを買うことになるが、
そういう土地に、都心部を処分した資金が集中するようになると、
郊外の駅前土地も暴騰を免れなくなってしまう。

つまり地価の値上がりは
値段の高いところから安いところへ伝染して行く傾向があるから、
地価の暴騰は全国的なスケールに広がって行くのである。

とすれば、何も、
都心部の最も値段の高いところの土地だけを狙う必要はない。
一坪一億円もするようなところは、
一流の不動産会社に任せておけばよい。

どうせ買いたくとも買うお金はないのだから、
「あれは酢っぱい葡萄だよ」
と負け惜しみのーつも言っておればよいのである。

事実、坪一億円もするような土地は
庶民と何の関係もないのだから、
将来、値上がりするようなことがあったとしても、
売買に参加できる会社同士の間の出来事にすぎない、
それがさらに値上がりするかどうかは、
もっと高い家賃を払う会社が現れるかどうかにかかっている、
といってよいだろう。

中小企業や個人にとってもっとも関心のあることは、
そんな都心部の土地よりも、
自分たちが現に住んでいる土地、
これから求めようと思っている土地や家や
マンションの値段がどうなるか、
もしこれから新しく借金をして買うとすれば、
どんな土地やマンションを買えばよいのかといったことであろう。

そういった意味で、庶民の関心をひく不動産は、
二十三区内でいえばマンションくらいしか残っておらず、
あとはすべて郊外へ舞台が移動すると考えてよいだろう。

まず都心部のマンションについてであるが、
この本の第2章「都心部のマンションは今が買い時」を
雑誌『オール生活』に連載した(昭和六十一年六月)のと
ほとんど時期をしめしあわせたかのように、
マンションが大暴騰をはじめた。

私があの一文を書いたときは、
まだ都心部のマンションは坪当たり三百万円で買えた。

ところが四月頃から値上がりがはじまり、
秋口には坪当たり五百万円から六百万円、高いのになると
坪当たり一千万円を超えるものも出はじめた。

一億円出せば三十坪あまりのマンションが手に入ったのが、
二億円とか三億円というベラボーな値段がついている。

経済の専門家たちは、
「世の中は半世紀ぶりのデフレだ」と説明しているが、
不動産や株などに関する限り、
デフレどころか、空前の大インフレといってよいだろう。

つまり、日用品の価格と財産価値のあるものの価格は
二極分化の方向にあり、
物価は下がるがそれに反比例して土地や
株などの財産価値のあるものは
上昇の一途を辿っていると見るのが正しいのである。





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2013年8月10日(土)

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