死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第25回
その場所その場所の一等地を

もしそうだとしたら、
都心部やムードのある住宅街、
そして大阪や名古屋の中心部ばかりが値上がりをして、
庶民の住む住宅街はあまりあがらないだろうという見方にも、
多少の修正を加える必要が起こってくる。

東京と地方の地価にはなるほど大きな格差があるし、
この格差は今後ますます広がるだろうが、
それでも郊外や地方の地価はそれなりに値上がりをするだろう。

しかし、その場合でも、
値上がりする土地と値上がりしない土地を
ふりわける法則が働くことはたしかである。

まず第一に、人口のふえる土地と人ロの減る土地では、
明暗がはっきり分かれる。
人口のふえている土地は、
そこに新しいメシのタネがある証拠だから、
仕事のない地域から人が移ってくるし、
それらの人々を狙って、
スーパーや商店やレストランなどもふえてくる。

したがって、人口のふえる町の地価は、
当然のことながら、
過疎化のすすむ町の地価よりも高くなる傾向を持っている。

第二に、人口のふえる町の中でも、
人の集まってくる地域と、
人通りがなくなって衰亡の一途を辿って行く地域とがある。

もちろん、 古い街並みよりは、
新興地のほうが有望だし、値段も高くなる。
住宅地もまた同じで、田圃や畑の中に
建て売りの家がボツボツ建ちはじめると、
最初は古い屋敷街よりうんと安い値段だったりするが、
十年もすると、同じ値段か、
それを追い越す値段に変わってしまう。

だから、町の中で、いまどの方向に人気が集まっているか、
どの方向に向かって住宅地が発展しつつあるか、
をよく考えて土地の選択をする必要がある。

第三に、土地を買う場合、
決して安値に惚れて欠陥地所を買ったりしないことである。
袋小路の奥にあったり、日陰になったり、
地形がおかしかったりすると、
周囲に比べて地価が七掛けだったり、半値だったりする。

誰しも限られた資金しか持っていないので、
つい安値に惚れてうっかり安い地所を買う気を起こしがちだが、
これをやるとあとで必ず後悔をする。

どうしてかというと、安値の土地には安い理由があって、
安く手に入れたといって喜んでいるが、
次に、こちらが売手にまわると、やっぱり欠陥をつかれて、
安く叩かれて手放す以外に方法がないからである。

したがって同じ土地を買うなら、
一等地を買うに限る。
銀座や青山には日本でも最高の一等地がある。
そういう一等地は望むべくもないが、
郊外に行っても地方都市に行っても、
その地域なりの一等地がある。

住宅にも、もちろん、住宅の一等地がある。
そういう一等地は一等地と言われるくらいだから、
値段も高いにきまっている。
その代わり、いい場所にあって、日当たりもよいし、
地型もきちんとしている。

気に入らないのは値段だけで、
あとは、一目見ただけで、
「これがいいなあ」と惚れてしまう地所である。

こういう一目惚れのする地所と、
値段の割安な欠陥地所とどちらを買うべきか、
ということになると、もちろん「一目惚れのする土地」である。

どうしてかというと、欠陥地所は、
「安値に惚れる人」以外に次の買主を見つけることは困難だが、
「一目惚れのする土地」は「金に糸目をつけない人」が
いくらでも惚れてくれるからである。

以上三つの選択基準さえ頭の中に入っておれば、
大都市だろうと、地方都市だろうと、
間違った選択をする心配はないだろう。

住宅地は既に住宅が飽和状態に達しているので、
値上がりしないだろうと思うかもしれないが、
住宅地も少しずつだろうが、まだあがる余地は残っている。

その場合に以上述べたような法則が働くが、
これらの法則の中でも最も重要なのは、
おそらく「土地を買うなら一目惚れに限る」
ということであろう。





←前回記事へ

2013年8月11日(日)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ