死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第26回
都心から全国へ広がるパターン

最近の新聞報道によると、
東京都の住宅地はこの一年間で二倍から
三倍にも値上がりをしたそうである。
なかでも大田区とか、世田谷区とか、目黒区の値上がりが激しい。

新聞の報道は、実際に起こったことの事後追認である。
東京都心部の商業地区の値上がりに続いて、
それに隣接するムードのある住宅地が値上がりをし、
続いてそれが田園調布とか成城とかいったところまで及んでいる。

おそらくこうした動きになるだろうことについて、
私はこの本のはじめでもふれた通り、
三年前に既に予測をしたし、
それが東京のムードのある住宅地にも、
また大阪や名古屋の商業地区にも波及するだろうことも
予測をしている。

それが遂に一般住宅地にまで及んだわけであるが、
中央線沿線とか、東横線沿線で坪当たり四百万円、
五百万円というのは必ずしも珍しくなくなってきた。
新聞に報道されているよりも、
値上がりの幅はずっと激しいのである。

最初の頃、私は世界の国際金融の中心地が
ニューヨークから東京に移りつつあり、
中来区、千代田区、港区でビルのスペースが不足しているので、
これは実需とつながった値上がりだと説明をした。

しかし、ウォール・ストリートが
兜町に引っ越してくるていどの話なら、茅場町界隈とか、
せいぜいのところ、丸の内までの地価の値上がりでとまる。
それが青山通りから神田界限、
さては渋谷区、新宿区と広がって行けば、
土地の値上がりが単なる国際金融の
中心地であるかどうかの問題ではなくて、
国際金融の中心地に世界中のお金が
集まってくるだろうことも含めて、
日本列島をお金がどう流れるかということと
かかわりがあると考えるよりほかない。

日本国内に起こることは、いつも東京にまず起こり、
それが全国に広がって行くパターンになっているが、
土地の値上がりもその例外ではないということである。

ところが折から円高がすすみ、輸出は鈍化し、
輸入は原材料の原価が安くなったこともあって、
卸売物も消費者物価も下向き傾向にあるので、
円高デフレを指摘する向きもあり、
そのうちには土地も値下がりするぞ、
と予言している人もある。

「本当に土地が値下がりするようなことがあるのでしょうか?」
「賃下げということもあるのでしょうか?」
と不安そうに質間する人もある。

それに対して、「まあ、そういうことにはならないでしょうね」
「そういうことを言う人は、自分で事業をやったことのない、
頭の中だけで物を考えている人ですよ」
と私は答えることにしている。
現に土地があがっているのに、その事実を無視して、
地価の将来を予想するのは、
現象に対して忠実でないということでもあるし、
その背景に対する分析力に欠けている
ということにもなるからである。

むろん、地価はつねに胸突八丁を
駈けあがるものとばかりはいえない。
日本国内でも、昭和四十九年、
五十年頃の石油ショック直後のように、
軽井沢や那須や北海道の土地を腹一杯買いすぎたために
金ぐりがつかなくなった例がある。

買値より安い値段で売りに出さざるを得なかった土地が
まったくなかったわけでもない。
しかし、戦後の日本では、地価が反落するということは
一ぺんもなかったので、
少し辛抱をする時間が長いだけでロケーションの選択さえ
誤まらなければ土地投資に失敗した例は
ほとんどきいたことがないのである。





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2013年8月12日(月)

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