死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第28回
巨額資金が不動産に向かう

こうした中でひとり日本の不動産だけが
東京を中心として、
この三年間に二倍から三倍にあがってきた。

この動きを正常と見るか、危険と見るかは、
当然、人によって意見が分かれる。
今のところ日本が唯一の例外になっていることについては
世界の国際金融の中心地が東京に移りつつあるからだと
説明されているが、
おそらくそんな単純なことではないだろう。

もっと大きな金の流れがもたらしたものであって、
さしあたり次のようないくつかの理由が考えられる。

まず第一に、日本には、香港、台湾のような
政情不安から来るカントリー・リスクがないことである。
またシンガポールやフィリピンのような
経済不安からくる沈滞も見られない。

第二に、東京の土地ばかり暴騰して、
今のところ地方都市まで波及していないが、
もともと日木の経済活動はほとんど東京に集中している。

首都圏には約三千万人の人ロが集中しているが、
この三千万人は、他の九千万人に
匹敵するくらいの経済カに恵まれている。

したがって、土地の値上がりがある場合は、
まず東京で、それが起こり、
やがてそれが全国に波及して行くと考えるほうが正しいのである。

第三に、日本人の富は、
円高不況におちいっても、
依然としてふえ続けている。

しかも過去のように工業生産のための
再投資の道がひらかれていない。
たとえば、賃上げがすっかり低調になったが、
年にーぺんのベース・アップで
一人当たり一万円の賃上げがあるとする。

この金額は日本人の目から見たらまったく大したことはないが、
一万円といえば東南アジアの国々の
一人の人間のーカ月の収入に相当する金額である。

日本における一年間の賃上げ分は、
インドネシアの全人口の収入分に
ほぼ匹敵するくらい大きな金額になるのである。

また日本人には既に五百兆円の貯蓄がある。
年に五%ていどの金利がついたとして、
それだけで二十五兆円の資金がふえる。
その金額だけでも千六百億円にあたるから、
ほぼアメリカが全世界に対して不足する貿易上の赤字に匹敵する。

その金額も含めて、
約三百三十兆のGNPのうち十八%の貯蓄が行なわれるとしたら、
年に六十兆円という資金が
新しく投資先を求めて資本市場に参入してくるのである。

これだけ巨額の資金が行き場を失って、
土地と株に向かったら、どういうことになるのだろうか。
とても日本国内だけでは消化しきれないので、
保険会社などが率先してアメリカにせっせと運んでいるが、
かといって公債投資だけでは
為替差損の負担に耐えられないので、
次第に不動産に重点が移ってきた。

しかし、年間を通じて
海外投資に回される分はまだ微々たるものにすぎないから、
あとはほとんど土地と株に向かうことが考えられる。
土地や株は下がるどころか、
利回り水準の訂正につながるよりほかないのである。





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2013年8月14日(水)

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