死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第29回
土地と株は上に行く

第四に、 アメリカの景気の後退や、
貿易摩擦の激化によるドル安や、
あるいは 、大恐慌の可能性が暗い影をおとしている
という事実がある。

最近のアメリカの経済環境が
次第に六十年前のイギリスのそれに類似してきたことについては
多くの人々によって指摘されている通りである。
私自身もこのことについてはくりかえし述べてきている。

もし大恐慌か、それに近いピンチが起きるとすれば、
おそらく中南米の債務国が
元利の支払い不能におちいったときであろう。

メキシコやブラジルやアルゼンチンが
「もうこれ以上の負担に耐えられない、
今回限り返済を停止する」といえば、
ピンチにおちいるのはそれぞれの債務国ではなくて
それらの債務国にお金を貸しているアメリカの大銀行である。

サラリーローンかりお金を借りている人たちが返済をやめたら、
困るのはお金を借りている人たちではなくて、
お金を貸しているサラリーローンである。

現在でもアメリカでは三日に一行くらい
銀行の倒産が起こっているが、
名もない銀行の倒産なら政府も
見て見ぬふりをするだろう。

しかし、それがバンク・オブ・アメリ力とか、
チェイス・マンハッタンのような大銀行だとしたら、
影響するところも大きいから、
政府が救済の手をさしのべないわけには行くまい。

債務の保証をアメリカの政府がするということになれば、
今まで焦げついた債権はそのままにしておいて、
新しく信用を創造して預金者に支払いをすることになる。
どういう形の支払い保証であれ、
実質上、ドルを増刷することに変わりはないのである。

こんな身勝手なことは世界中で、
ドルの発行権を持っているアメリカにしかできない。
アルゼンチンやフィリピンがどんなに困っても、
そんなことができないのに、
アメリカだけがドルの濫発をするのを黙って見ているほど
世界中の国々は寛大ではない。

つまり、もしアメリカがペーパー・マネーを増刷して
自国の銀行の困難を救えば、
そのたびにアメリカのドルは大暴に見舞われることになる。

したがって新しい型の大恐慌とは、
もしかしたら「ドルの大暴落」という形をとった
パニックのことではないかと思う。
もしそうだとしたら、それは既に昨年来、
日本経済に大きなショックをあたえている
ドル安の続きであり、一ドル百五十円までおちたドルが
さらに百円までおちることにほかならないのである。

少なくとも、金本位制時代の銀行のように
金庫の中に金貨がなくなったら、
お手上げになるということはもう二度とない。

政府が救済をするということは、
もっとお金を刷るということにほかならないから、
お金が少なくなって、巷に溢れて
物価が大暴落をするということにはならないのである。

ほんとうにデフレになるのなら、
しっかりお金を握って物も買わず、
土地も買わず、株も買わず、
じっとしていたほうがよいにきまっているが、
お金をじっと握りしめている間に、
同じ仲間がドンドンふえて、
お金そのものの値打ちがなくなってしまうのなら、
お金を持っていたほうが不安になるのである。

では、何が比較的安心かというと、
それは、土地であり、株であり、 場合によっては、
黄金であるから、これらのものが
値下がりするとはとても考えられないのである。

むろん、ドルが1ドル=百円になったら、
アメリカでは輸入品の値が高くなって、
少なくともその分だけはインフレになる。
もし日本が何の対策も立てず、
円高になるに任せておけば、
当然、輸出の大半がストップしてしまう。

物が売れなくなればその分だけ日本国内はデフレになるー
というのが古典派経済学の理論なのである。
ところが、実際には多分、そういうことにはならないだろう。
日木の企業は物が売れなくなったら、
売れる分だけ生産をして、操短をやる。
輸出分にあたるものは現地生産に切り替えて、
現地の需要にあわせる。
したがって国内はデフレにもならないし、
物もありあまったりはしない。

しかし、輸出も減るし、
その影響で国内の商売もあんまりよくないとすれば、
倒産企業がふえる。
アメリカがインフレで、日木はデフレといった
相反する経済現象が起こったために、
日本で企業倒産が続出しそうになったら、
それを政府が放任しておくことはまず考えられない。

なりふりかまわず、倒産を防げようとすれば、
政府は借金をふやしてでも、また公共予算を前倒ししてでも、
景気の振興を図ろうとするであろう。

成長率はおちるかも知れないが
国民貯蓄は依然としてふえ続け、
海外からの配当収入もふえるとすれば、
資金がふえることはあっても減ることはまず考えられない。

こういう資金の流れを背景とした日本で
はたして土地が下がるだろうか。

おそらくそんなに遠くない将来に、
アメリカはインフレに転じ、
金利も下げどまってしまうだろう。

インフレがとまりそうもなければ、
それを抑えるために不本意ながら
再び金利をあげざるを得ないような状態になるのではないか。

あれこれ考えてみると、アメリカがインフレになったら、
日木もインフレへの道を選ばざるを得ないのである。
どうしてかというと、
インフレのほうが経済界はスムーズに動いて行くし、
税収の自然増も期待できるからである。

アメリカもインフレ、日本もインフレとなれば、
世界中がそれに歩調を合わせるようになることはまず間違いない。

かりにそこまで行かないとしても、
日本の国内でお金がふえ続け、
しかもほかに新しい投資先が見つからない限り、
土地と株は上へ行くことはあっても
下へ行くことはあまり考えられない。

したがって東京の地価の上昇がほぼ行き詰まれば、
この次は、地域ブロックの中心地で
地価の上昇が起こると見るのが正しいのである。





←前回記事へ

2013年8月15日(木)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ