死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第34回
利回りで見るワンルーム マンション(2)

そうした目で改めて地方都市を見ると、
「この土地はあがりそうだから、今のうちに買っておこう」
といった発想で、土地を買うより、
この町ではどんな商売が成り立つだろうか、
そういう商売をやるとすれば、
どの地点がふさわしいかというところから出発したほうが
よさそうである。

たとえば、大学がいくつもあるような学園都市とか、
東京や大阪の大きな会社の支店がつくられる九州ブロックや
北海道ブロックの中心地に行くと、
地方から集まってきた学生とか、
単身赴任のサラリーマンが多い。

これらの人々はかつてはアパートとか、
下宿住まいをしていたが、
国民一般の生活水準があがってきたので
ワンルーム・マンションに住む人が多くなった。

学生とサラリーマンを一緒くたにするわけには行かないが、
大学の近くにつくられたワンルーム・マンションは
学生からの巾込みが多いし、
学生の家賃は親が払ってくれるから滞納の心配はほとんどない。

また単身赴任のサラリーマンだと、
もう少し家賃が高くても大丈夫だが、
掃除から洗濯からメッセージの伝達まで
きちんとやってくれるところなら、すぐ満杯になってしまう。

他地方からの転任者でなくとも、どこの都市でも、
男女の独身者は必ず一定数あり、
しかもその数がふえる方向にあるから、
地方都市にワンルーム・マンションをつくると、
借り手には事欠かない。

その代わり田舎の人は、土地の信者ではあっても、
マンションを財産と見ることになれていないから、
マンションに食指を動かす人は少ない。

しかし、家賃は大都会に比べると、
うんと安いかもしれないが、
その代わりマンションの売値もそれなりに安いから、
売値に対する利回りは、大都会よりずっとよい。

たとえば東京や大阪では
五%以下の利回りになっているところが多いが、
地方都市に行くと、今でも八%以上に回る物件がたくさんある。

地方都市のマンションは東京のマンションのように
値上がりは期待できないかもしれないが、
利回りが八%以上あれば、投資の対象にはなる。

定期預金の金利が3.39%で、しかも将来、
お金が目減りするかもしれないことを考慮に入れれば、
定期にしておくよりは、
ワンルーム・マンションに投資しておいたほうがよいし、
金融機関から住宅ローンを借りた場合、
利率七%とか、七・五%とか、一応八%以下であれば、
借入金の金利分は家賃が払ってくれる。
元金を、自分たちの収入の中から少しずつでも返済して行ければ、
それは貯蓄をマンションの形で積み立てているようなものだから、
インフレになれば思わぬトクをするし、
インフレにならなくとも単なる貯金と違って
借金の返済に追われるから、
ほかに優先してお金を払うことになり、
結果として知らず知らずのうちに
貯金をしたことになってしまうのである。

地方の人がマンションに馴染めないために
買手を見つけるのが困難でも、
ちゃんと利回りに合う定収入があれば、
東京や大阪の人が投資をする。

実際に東京のマンション業者が地方都市で分譲している
マンションを見ても、借りる人は当然、
その都市に住んでいる人だが、オーナーは東京、
大阪の人が多いようである。

もちろん、こうしたプロジェクトが成り立つためには
ビルの管理がきちんとしていることと、
ロケーションや建物がよくて、
借り手に困らないことが前提になっていることは言うまでもない。

また地方都市でできる商売は、工場を除けば、
その土地の人を相手の商売か、その土地を訪れる旅行者を
相手の商売だから、
(1)ホテル、ビジネスホテル、結婚式場、
(2)料理屋、レストラン、飲み屋、
(3)スーパー、デパート、ショッピング・センター、
(4)学校、塾といった商売に限られてくる。

そうした商売を自分でやることを思い立ち、
きちんと採算にのせる自信のある人は当然、
地所の物色をする。

小さな商店を一軒や二軒つくっても、
人の流れを変えることはできないが、駅前でありながら
今まで人通りの少なかったところだとか、
新しい駅ができて地方鉄道が
ターミナル・デパートをつくったとか、
今まで田圃の真ん中だったが、
市役所が移転することにきまったということになると、
途端に地価がはねあがる。

関西新空港が本ぎまりになった泉佐野市を見てもわかるように、
国がお金を投じて新しく開発に乗り出す地域は
土地ブームになるし、
東京湾の湾岸道路が内需促進の一環として具体化すれば、
その道路沿いの土地は一躍、脚光を浴びることは間違いない。

反対に、人ロが過疎化しつつあるところは、
投資の対象としてはまったく不向きである。

通貨インフレが物価水準を引上げ、
全国隅々まで及ぶことも考えられないではないが、
そういう場合でも、人ロの少ない地域、
わけても人ロがさらに過疎化を続けている地域は、
農業用の田畑はもとよりのこと、
都市部の土地の上昇力も非常に弱い。

メシのタネを探すことの困難なところでは、
地代の生ずる余地がほとんどなく、
土地がお金を生まなければ地価の上昇も当然、
ほとんど期待できないからである。





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2013年9月1日(日)

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