死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第35
ウォール・ストリートから兜町へ

土地を買うとき、いつも心の迷うのは、
都心部のような地価の高いところを買うべきか、
それとも郊外のこれから値上がりしそうな土地を買うべきか、
という判断を迫られたときであろう。
どちらにすべきかは土地を買う人にとって
永遠のテーマのーつといってよいだろう。

都心部の土地はいつも高い。
地方都市の中心部にある繁華街と
地方都市の住宅地とのバランスについても同じことがいえる。
東京の都心部と地方都市の中心部、
また東京郊外の住宅地と地方都市の住宅地を
比較した場合にも同じことがいえる。
都心部の土地が高いのは、もちろん、
都心部の土地がごく限られており、稀少性があるからである。
また都心部は人口の集中するところであり、
そこで商売をやれば、売上げがあがり、
ほかには見られないような業績をあげることができるからである。

最近の東京の場合は、東京がニューヨークに次いで
国際金融の次の中心地になるだろうという思惑もからんでいる。

日本経済の実力が全世界から認められるようになると、
日本に集まってくる資金を狙って、
世界中の金融機関が東京へ押し寄せてくる。
また日本の株や不動産や公社債に投資しようとして、
他所の国の資本まで日本に集まってくる。
不思議なもので、
お金はお金のあるところへ集まる傾向があるので、
あの国にお金が集まりそうだよ、
と世界中の人が思うようになると、
本当にその国にゾクゾクとお金が集まってくるのである。

かつてのニューヨークがそうであった。
ニューヨークには世界中の銀行や証券会社が集まっている。
それもマンハッタンの突端に近い
ウォール・ストリートというところへ集中している。

私もウォール・ストリートまで
わざわざ出かけて行ったことが何回かあるが、
世界金融の中心地だから、どんなに凄いところかと思ったら、
その名の通り、壁と壁が押し迫った狭い通りで、
日木なら銀座は銀の取引をするところだったが、
ニューヨークでは自動車の通り抜けもままならぬ細い道にすぎず、
そこに金貸しが昔から集まっていたので、
世界中の金貸しがさらに次から次へと
店を出してきただけのことである。

さいわい金融業者の扱っている商品はお金であり、
お金の取引は紙切れだったり、
紙切れにサインするだけのことが多いから、
狭い通りでもトラックの行列で見動きできなくなるおそれはない。
その代わりお金の取引のためにわんさと人が集まってくるから、
人を載せる自動車でラッシュになると、
人を容れる建物が不足するようになる。
土一升金一升といった地価の暴騰は免れ得なくなるのである。

同じことが東京にも起こるキザシが見えてきた。
おかげでこの三、四年、
都心部の土地が目立って高くなっている。
なかでも、日本の金融機関は、
丸の内のオフィス街と日本橋の兜町界隈に集中している。

これらの地域に外国の金融機関が割り込むとすれば、
もともと都心部のオフィス街は既に満杯であるから、
一つは同じ地域にある利用度の低い建物をこわして
再開発をするよりほかないし、
もうーつは溢れ出た需要を充たすために
近隣地域にはみ出して行くよりほかない。

都心部の土地が中央区、千代田区、港区を中心として、
不動産会社の買い漁りの対象になったのには、
こうした社会的な変化が背景にあったからである。





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2013年9月2日(月)

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