死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第36回
都心部は移動する

おかげで都心部の土地は信じられない値段まで買いあげられたが、
それでなくとも都心部の土地は高い。
高い土地がさらに一段と高くなったので、
やっぱり土地は高いところがよいということになる。

しかし、そうした傾向を否定する考え方も、
またそれを否定する経済現象も決してないわけではない。
まず土地が高くなりすぎると、人が住めなくなる。

前記三区の住民が年とともに
少なくなっているのを見てもわかるが、
オフィス街になったり、商店だけあって
住民のいなくなった街はオフィスとしての利用価値はあっても、
商店街としての機能は低下する。

たとえば、丸の内のビル街でレストランをひらいても、
土曜・日曜、祭日は休んでしまうし、
オフィス街で働いている人々も
住宅が遠距離にあるために
退勤すると急いで帰ろうとするので
夜の商売が駄目になってしまう。

だからオフィスの賃貸料が値上がりするのと逆比例して
高い家賃を払ったのでは商売が成り立たなくなり、
家主に貢献するために働いているようなカッコウになってしまう。

私自身かつて丸の内に店をつくったことがあるが、
この傾向に恐怖を感じて、
早々と店を他人に譲ってしまったが、
友人たちにも足元の明るいうちに廃業することをすすめた。

レストランやコーヒー店は人が集まって来なくなれば、
当然、商売が成り立たなくなるが、
物品販売業にも同じことがいえる。

日本橋や銀座のデパートはクルマ社会になってから
休日や祭日は、かえって駐車が楽になった分だけ
人が入っている面もあるが、
それでもターミナル・デパートや
郊外型大型店の繁盛ぶりとは比較にならないだろう。

したがって百貨店としての売上げも
池袋の西武に首位を奪われたのを見てもわかるように、
決して楽観できるロケーションにはいない。

第二に土地が高くなって住民がいなくなると、
商業地としての使用価値が低下するから、
高い土地にビルを建てて賃貸しをしても、
そういつまでも高い賃料を期待するととができなくなる。

ことに賃料が高くても、
原価を形成する土地そのものが高くなれば
利回り採算はグンと悪くなる。

それに対して株式投資だって1%の利回りを割っても
まだいくらでも投資家は集まってくるではないか。
都心部にも同じことがいえるのではないか、という反論も、
もちろん、ある。

ありあまる資金に投資対策が見つからない限り、
利回りが悪くなっても、
都心部に投資をする財テク企業が
あとを絶たないことも事実である。

しかし、一方で利回りが低下し、
もう一方で不動産の利用価値が下がるとなれば、
都心部にドーナツ現象が起こるととは避けられない。

都心部に住めなくなった人、都心部を売却して
引っ越しをする人は、同じ東京都内なら
もっと地価の安い地区に移るし、
都内に住む必要のない人なら、八王子とか、町田とか、鎌倉とか、
それぞれの選択にしたがって郊外に移り住む。

東京で働いているサラリーマンの大半は
既に早くから私鉄沿線の地価の比較的安い地域に住んでいる。
これらの人々が通勤の行きかえりによるところは、
せいぜいのところターミナル・ビルであり、
休祭日に家族を連れて買物に行くところも、
ターミナルにあるデパートとか娯楽設備どまりである。

こうした人々の流れを反映して、
新宿、渋谷、池袋のターミナル周辺の地価は
丸の内や銀座に比べても
決して遜色のない水準にあがってきた。
うっかりすると、ターミナルのほうが
並日の都心部よりも投資意欲もそそるし、地価も高い。
昨日の都心部必ずしも明日の都心部とは限らないのである。





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2013年9月3日(火)

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