死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第37回
東京はニューヨーク型変化

第三に世界中の大都市を見ても、
ダウンタウンの中心部の土地が最も高いとは限らない。
アメリカではダウンタウンが黒人の群がる地帯になって、
雰囲気も悪くなり、大企業も本社を引っ越すし、
ホテルも一流はほかの地域に新しく建てられるので、
地価も下がっている。
商売も思うように行かなくなっているところが多い。

ニューヨークを見ても、
かつての五番街は地価が高すぎるせいもあるが、
新しい店をひらく人たちから見離され、
古い店ばかりになってしまった。
とうとうティファニーのビルさえ
大都会中心の発想がまだ頭にこびりついて離れない
日本人に買われたと新聞は報じている。

一方、若い企業家たちは、とてもそんなお金は持っていないし、
持っていたとしても既成の常識にしたがう気はないから、
セントラル・パークに近い繁華街は敬遠して、
グリニッチ・ビレッジとか、
あるいは、その途中にあるかつての倉庫街に店びらきをする。

そういう動きがまだ一軒か二軒にすぎなかった頃は
大して目立たなかったが、
せせらぎが大きな流れになると、
少なくとも若い人たちは
ソーホー地区に集まるようになってしまった。

五番街は、ニューヨーカーから敬遠され、
わずかにアメリカ中のおのぼりさんと、
全世界から集まってくる外人観光客で賑わう町と化したのである。

こうしたニューヨークの街中の移り変わりに比べると、
日本型の都市の形態は必ずしも
アメリカの後塵を拝するとは限らない。
だから心配はない、といって安心しているわけにも行かない。

クルマ社会になるよりずっと以前から
大都市を形成している東京で、
ロサンゼルスやシカゴのような
町並みに変化して行くことはないとしても、
同じように馬車が走っていた時代から
既に大都市として発達していたニューヨークに起こったていどの
移り変わりはあるものと考えたほうが正しいのではあるまいか。

とすると、これからの関心は、
都心部からほかの地域、すなわち
同じ東京都内のターミナルを中心とした繁華街、
同じ東京の中の住宅街、東京郊外の新しい衛星都市、
もしくは、地方都市の繁華街といったところへ
移って行く可能性がある。

ニューヨークでいえば、
ソーホーのような地区がないものだろうか、
阪神地域におけるつかしんのようなところはないものだろうか、
もしくは新しくひらけて行く衛星都市で
やがて町の中心地になるところはないものか、
と多くの人々が目を光らせている。

さしあたり東京の人が目を光らせるのは第二の原宿、
第二の代官山、もしくは、
第二の広尾みたいなところではないだろうか。

また東京郊外の衛星都市の不動産はどうなるだろうか
といったことであろう。
私は非常に土地感が発達しているというわけにはいかないが、
東京に住んで以来、原宿にも代官山にも広尾にも、
小さいながらも、店舗を1つずつ買ってきた。

また自分の家を建てるときも、
「何となくクルスタルな街」のど真ん中に土地を選んだ。
もっとも私が選んだときは、
まだ周囲は旧山手通りを挟んで
住宅地が立ち並んだ閑静な雰囲気にすぎなかったが、
私たちが移り住んでから間もなく、
次々と大使館とファッション・ビジネスの本社が
立ち並ぶようになった。
近くにはヒルサイド、テラス
という設計者が賞をもらった有名な建物があるほか、
メルローズ、芦田淳、島田順子、イタリ屋、
クマガイなどのファッション・メーカーの建物が
大使館と軒を並べているし、
代官山通りから下へおりた駒沢通りにまで
商店街が広がるようになった。

おかげで自分の家の地価も買ったときの百倍にはねあがったが、
して見ると、土地は何も旧都心部になければならない
ということはなさそうである。





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2013年9月4日(水)

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