死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第58回
不動産は借金と抱合わせで持つ

こうした税金の重圧を避けて通ろうとすれば、
不動産を個人で持たないようにするよりほかない。

しかし、そういうことに気づいたときは既に手遅れで、
不動産を個人名義で持ってしまった人はど
うすればいいのであろうか。
収入をふやすのも容易でないが、減らすのはもっと難しい。

人に貸してある土地建物の家賃を減らせば、
借り手に感謝されるかもしれないが、
自分が損をした気分になる。

かと言って家賃をふやしても、
税金にとられてしまうだけでは何の役にも立たない。
ことに社長業としての収入が納税採算点を越えているのに、
その上、不動産収入がふえて、
ふえた分だけそっくり税金がふえたのでは
もっと損をしたような気分になってしまう。

そういう人は、まず自分の個人財産を管理する会社をつくって、
その会社に財産管理を委託すればよい。
委託手数料として収入の20%とか、
25%を支払っても文旬は言われないであろう。

管理会社の社長に奥さんなり、身内の者なりを据えて、
給料を払えば、給料は給与所得だから、
資産合算の対象にはならない。
そういう家族会社をつくり、
以後の私有財産はすべてその会社の所有にすれば、
財産管理のための家族会社ができあがるし、
個人資産からの収入を20%なり25%なり家族会社に移せば、
その収入はすべて借入金の金利支払いにあてることができる。

かりに年収五千万円ある先述のご婦人が
その家賃管理を家族会社に委せて20%の管理費を支払うとする。
彼女の収入は一千万円減るかもしれないが、
税金に支払う分も七百七十万円減るから
実質減収は二百三十万円にすぎない。
ところが、一千万円の収入を得た管理会社が
二億円のお金を銀行から借りて、
四%に回る不動産を買い、
年に八百万円収入があったとしたら、
六%の金利を支払ったとしても、
差引き六百万円の収入を得たことになる。

六百万円の利益は給料として払い出してしまうこともできるし、
減価償却資産がそれだけ分あれば、
それぞれ利益に計上されることもなく、
借入金二億円の返済資金に充当することもできる。

二億円で購入した不動産は将来、
値上がりによって二倍にも三倍にもなるかも知れないから、
わずかの収入を犠牲にしただけで、
家族会社の資産を新しくつくることができるのである。

また個人資産は、できあがってしまったものは仕方がないが、
そのままにしておくと死んだときに、
最高七五%の相続税の課税対象にされてしまう。

それを避けようと思えば、
路線価格にほぼ等しいか、
それを超過する借金を抱え込むよりほかない。

たとえば時価が十億円で
税務署の評価が四億円の不動産を持っているとする。

無借金のまま死ぬと、
四億円の資産を残したものとして相続税をかけられる。
もしこの不動産を担保に入れて六億円の借金をし、
そのお金で六億円分のマンションを買ったとする。
マンションの評価額は一般に土地より低いから
六億円の評価が二億円とした場合、
実際には合わせて十六億円の資産と
六億円の借金を持っているのに、
税務上は六億円の資産と
六億円の借金を持っているものと計算され、
課税対象にはならないですんでしまうのである。

したがって借金が資産の路線価格に見合った財産の保有の仕方が、
最もスマートな不動産の持ち方ということになる。
個人所有の財産は以上のようにバランスのとれた形に組みかえ、
あとは新しく家族会社をつくって株主は家族間に分散し、
一番先にあの世に行く手筈のお父ちゃんや
お母ちゃんの持分はなるべく少なくしておくことである。

不動産を個人が持たずに会社が持ち、
その会社も個人と同じように
借金が不動産の路線価格と見合うようにしておけば、
膨大な含み資産を持っていても、評価は低い会社になる。
そういう会社の形にしておけば、
不動産という名の財産も
親から子に伝えることが可能になるのである。





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2013年9月25日(水)

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