死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第59回
借金なしでは大成しない

不動産というと、すぐにも借金を連想する。
親代々の大地主なら別だが、
新興成金なら借金をしないで
不動産を手に入れることのできる人はまず一人もいない。

不動産の値があがりすぎて、
個人や中小企業が貯め込んだお金ていどでは
間に合わなくなったせいもあるが、
借金を併用して不動産を買えば、所得税の節税にもなるし、
また相続税対策にもなることを知っているのは
ほかならぬ新興成金だからである。

親から受け継いだ農地や山林が
住宅地や商業地になって
思わぬ資産家に成り上がった農民は多い。

先祖代々の遺訓を守って、土地だけは売らなかったので、
何億円、何十億円の資産家になったが、
もちろん、その裏にはあわてて土地を売りとばして
儲けをすっかり取り逃してしまった農民もたくさんいる。
運よく頑に父祖伝来の土地を守ってきたおかげで
金持ちの仲間入りをした地主たちでも、
莫大な資産を見事に活用しているかというと、
多分、その反対であろう。

というのも自分の地面の上におちていた
お金を拾ったようなもので、
もともと自分の力によって稼いだものではないから、
その運用能力を欠いていて当然なのである。

そうした人々に借金の話を持ちかけても、
恐ろしがって尻込みをするだけのことであろう。
「せっかく、土地をお持ちなのですから、
建物を建ててお貸しになったらいかがですか、
必要な資金はお貸し致しますよ」と銀行から持ちかけられても、
「いやいや、株と借金の保証だけはやるな、
というのがお祖父さんの時代からの家訓でしてね」
などという返答がかえってくる。

考えて見れば、私の年代の人がまだ子供だった頃には
こうしたタブーは大手を振って罷り通っていた。
株に手を出したばかりに田畑を売り払う破目になった
という話もあったし、
他人の借金のハンを押したために
家屋敷を手放すことになった話もよくきかされた。
他人の借金の保証をしてもいけないくらいだから、
もちろん、自分が借金をしてもいけない。

人間は自分の収入の範囲内で暮らすのがまともな生き方だし、
仕事の拡張も自分の資金の範囲内でやるのが
地道な生き方だと教えられてきたのである。
少なくとも百姓や小商人や月給取りは
そうしたルールを守るのが常識であった。

もっともそういう時代にあっても
進取の気性を持った事業家たちは、株も盛んにやったし、
借金もこわがらなかった。
アンドリュー・カーネギーのように
世界的な大富豪は鋼鉄王として
第一線で活躍した頃はアメリカ中に人を派遺して
銀行という銀行からお金を借りまくったと自伝の中に書いている。

事業に夢中になっていた頃は、
毎朝、ニューヨークのアパートで目を醒ますと
新聞の株式欄にかじりついている自分自身を発見したが、
さすがにこれではいけないと反省し、
以後は自分の関連会社の株だけに限ることにしたとも書いている。

このことは、借金をしなければ、
事業を大きくすることができないということにほかならず、
また株式投資で成功することが
お金持ちになる早道であることをも物語っている。

現に経済の発展が一段とすすみ、
工業が農業に代わって産業界を代表するようになると、
株式投資も普遍的になったし、
借金をして事業をしたり不動産投資をしたりするのも常識化した。

して見ると、世の中の進歩とは、
かつてタブー視されてきたものをうまく活用することであり、
株式投資も借金も、扱い方を開違えれば大へんなことになるが、
うまく使いこなせれば、
この上なく役に立つものであることがわかる。





←前回記事へ

2013年9月26日(木)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ