死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第60回
不動産投資成功の四条件

その点、無から有を生ずる成金の道を歩いてきた者は、
借金処世術が身についている。
それは地価が暴騰しすぎて
個人の持ち金では間に合わなくなったから
俄に気づいたことではなくて、
もともと借金からスタートして、
その滋味を知りつくしているのである。

「不動産投資といえば、すなわち借金」
と連鎖反応するほど密接な関係にあるのである。

たとえば、私が借金をして不動産を買うことを思い立ったのは、
別に親からその秘訣を教わったわけではなかった。
私の親は人にお金を貸すことはあっても、
銀行からお金を借りたことのない小商人だったから、
スケールのほどがわかろうというものである。

それでも子供を同時に四人も日本に留学させることはできたから、
そう貧乏人のうちには入らないのだろうが、
銀行を利用するには至らず、
お金を預けておくところくらいにしか心得ていなかった。

そういう環境に育った私が
銀行からお金を借りてビルを建てることを思い立ったのは、
東京に住んで文筆業に従事しているかたわら、
産業界の人たちが借金をしてビルを建てているのを横目で見て、
その動機や結果について自分なりの観察力を発揮したからである。

復興のさなかにあった戦後の日木では、
どこの銀行も生産資金や設備資金は貸したが、
土地を買ったりビルを建てたりする資金は貸さなかった。

しかし、少し資金に余裕のある企業はどこも盛んに
本社ビルや支店のビルを建てていた。
どうしてそういうことができたかというと、
工場を建てる資金計画をたてて
銀行からお金を借りて本社ビルの建築に回すか、
工場を建てるだけの自己資金は持っていても、
その分はビルを建てるのに回して、
工場建設の資金はもっぱら借金にたよるような
金ぐりをしたからである。

土地を買ってビルを建てると、
何年もしないうちに土地が値上がりをした。
値上がりをした土地を担保に入れて次の土地を買い、
また建物を建てると不動産はさらに値上がりし、
それに反比例して借金は小さくなったので、
借金をして都心部にビルを建てた企業は、
見る見る大企業にのしあがった。

森ビルや秀和などは、その好例だが、
これら不動産会社が成功した秘密は、
唯一つ、できるだけ借金をして都内のこれはと思う土地を買って
ビルを建て、借金はなるべく返さないようにして
含み資産をふやしてきた、ということである。

だから不動産投資で成功した人は、
(1)不動産投資をするために借金をすることを恐れなかった。
(2)土地を見る目があった。
もしくは土地の値上がりに恵まれた。
(3)土地を利用して収益をあげるプロジェクトを
推進する能力があった。
(4)借金と収益のバランスをとるだけの
経営能力を兼ね備えていた、ということであって、
その結果、大資産家になった人は
全国的に見ても決して少なくはないが、
ほかの業種に従事して成功した企業家や
経営者に比べて特にすぐれた資質を持っているとは言えない。

もちろん、不動産業といえども
大をなすためには経営能力を問われることは言うまでもないが、
ほかの業種に比べると、天のとき、地の利という点で、
遥かに恵まれている。
ほかの業種では同業者との競争に耐え、
ちゃんと収益をあげて行けるためには
並々ならぬ努力が必要だったが、
不動産業は土地を見る目さえあり、
資金ぐりにショートをきたさないだけのやりくりができれば、
成功できたのだから、
「運が七分で実力三分」と見てもそんなに間違ってはいない。

つまり不動産業を選んだというだけで、
既に70%の好運に恵まれたようなものだから、
成功するチャンスは大きいということだし、
そうした目で不動産投資に成功した人々を見れば、
無一文から不動産業で大をなした人々も、
三井不動産や三菱地所や住友不動産の経営者として
世間からもてはやされている人々も、
その腕のほどに関しては
かなり割引きをして評価してちょうどよいのである。





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2013年9月27日(金)

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