死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第69回
都心部の建て替えを進める手

また東京の再開発に大きなブレーキとなってきた斜線制限とか、
日照権は全面的に廃止しなければならないだろう。
東京では美濃部都政のときに、
人気取りのために財政資金の大盤振舞をやっただけでなく、
住民の日照権を土地の利用に優先させてしまった。

おかげでシロウトにはわかりにくい
建築法規にしばられるようになり、
土地を買うときも、建築家に図面を書いてもらわなければ、
どんな家が建つか見当もつかないようになってしまった。

日が当たらないと言うことは
ビルの日かげになった者には耐えられないことだが、
ビルが建つようになると、
土地が信じられないほど高くなるから、
それを売って日の当たるところに
移転することがいくらでもできる。
むしろ年寄り夫婦が
町の真ん中の五百坪の地所で庭いじりをするために
隣接地に高層建築が建つのを妨害しているほうが
よっぽど土地の有効利用を妨げることになる。

だからニューヨークでも、ロンドンでも、パリでも、
日照権などという概念はもともと存在していないし、
日照権とか、斜線制限とか、
建物の美観と利用度を著しく損なうような条件が
なくなってしまえば、
東京の町並みも欧米並みに美しくなり、
かつ合理化されるのではないか。

もしこうした七面倒な制限が解消されて、
建ぺい率が三倍になれば、
東京都内で古い家をこわして
新しいビルに建てかえたいという人はふえるに違いない。

今だとビルの建築費の中で
地価の占める比率は90%にも及び、
建物の占める比率はわずか10%にすぎない。

もし建築面積が三倍にふえれば、
10%が30%にふえるだけだから
全体の費用は二割しかふえないのに、
有効利用面積は三倍になるから、
建坪一坪当たりのコストは40%にダウンしてしまう。

坪当たり五百万円で売っているようなマンションが
二百万円で売れるようになるのである。

むろん、土地の利用度が高くなれば、
地価がさらにはねあがることも考えられる。
しかし、供給が莫大にふえておれば、
賃料が無茶苦茶にあがることは考えられないし、
したがって地価の値上がりも、まず考えられない。

建築費が二割ふえただけで賃貸スペースが三倍になれば、
単位面積当たりの家賃が同じでも収入が三倍にはねあがる。
古い建物を叩きこわして新しく建てなおしても、
地価に対して三分のーていどしか建築費がかからないのだから、
私自身、自分の持ちビルをこわして新築をしたい
という気持ちになるところが何力所もある。

私でさえもそう考えるのだから、
東京、大阪その他のブロックの中心地の建て替えは
かなりすすむに違いない。
国家予算を一文も使わなくとも、
内需の拡大につながることは誰の目にもはっきりしている。

にも拘わらず、
やれ売上税を新設しよう、売上税が駄目なら、
せめてマル優でも廃止して国民から税金をまきあげよう、
それを減税の銅源にしよう、などと、
政府の台所を通してお金を出入りさせる政策にばかり熟心なのは、
やはり「お金のかからない政治」には
関心を持たないという政治家の欠陥が
露呈しているとしか思えない。

多分、同じ選挙上の利害関係から、日本の議員さんは、
農地の宅地並み課題にも興味を示さないであろう。
食管法も含めて農地をいじることについては、
農協という圧力団体からの抵抗が激しく、
本当は、農地を大都会の中心に残すことは、
宅地の不足している折柄、決して感心したことではない。

それがどうして農地のまま放置されているかというと、
宅地に変更した場合は相続に際して
莫大な相続税を払わなければならないが、
農地のままにしておけば
わずかな相続税ですんでしまうかりである。

もしそうだとすれば、
「宅地並み課税」に欠点があるのではなくて、
相続税そのものに欠点があると言わなければならない。
宅地の供給が大切か、相続税収入をあげることのほうが大切か、
ということになると、
私は宅地の供給を拡大させることのほうが大切だと思う。

相続税を優先させたとしても、
その規定を農地に適用できなくなれば、
相続税そのものも取れなくなってしまう。

反対に農地並みの課税で相続させて、
その後、宅地に免税か、
ほんのわずかの分離課税で変更させれば、
収入が全部違ってくるのだから誰だって
喜んで宅地に地目変更をするだろう。

その結果、土地の利用がすすみ、
しかも宅地としての固定資産税がとれるし、
家が建てば、その分の固定資産税もふえるから、
一石三鳥くらいの効果があがる。
それでも宅地への転換ができないでいるのは、
農地として相続した際の過去の法律にしばられ、
地目変更をすれば却って莫大な相続税をかけられるからである。
土地の値上がりは人間のつくった法律に
人間がしばられていることから起こっていることが多いのである。





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2013年10月6日(日)

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