死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第70回
各種制限の撤廃で地価は下がる

法律にしばられていると言えば、
土地の取引ほど法律に左右されているものはない。
十年間以上の長期保有をした不動産でなければ、
買換えを認めないと言えば、
十年間、不動産は動かなくなってしまう。

不動産とはいつも税法にしばられて動くに動けなくなるから、
不動産と言うのだ、と思いたくなるほどである。
そんなことをやれば土地の供給が鈍ることは、
シロウト目にもはっきりしている。

だから、ある時期、時限立法で
三年ばかり分離課税を実施したことがあった。
この時期には長期保有の土地に限り、
地方税も含めて譲渡所得の25%か35%の分離課税ですんだから、
喜んで土地を売る人が多かった。
その後、また再び元の税法に戻ってしまったが、
分離課税で土地を売った人のほうが
えらくトクをしたと言うことはない。
その後も土地は上がり続けてきたからである。

何十億円の利益をあげても、あまり税金がかからないと、
見ていて癖にさわるからまた元へ戻してしまえと言うのでは
「嫉妬の税制」と言われても仕方がないだろう。
むしろ土地を処分して得たお金が再び土地に向かわず、
ほかに投資対象を求めて動けば、
土地がさらに高騰しないですむ。

また分離課税後の資金が外国での不動産投資に転用できたら、
日本の不動産を処分したお金を
外国に動かす人も多くなるに違いない。

土地を売った資金を土地にしばりつけておこうとするから、
土地があがりはじめると、
全国的な値上がりになって波及するのである。

また値上がりをおそれて、
土地の所有者が動かないようにしてしまうと、
土地の供給が不足して、
地価をさらに持ち上げる結果になってしまうのである。

だから地価抑止策を木気になってやろうと思えば、
まず第一は罰金的性格の税法はとらないことである。
その代わりにどうすれば土地の供給がふえるか、
そのブレーキになっている障害を徹底的に排除することである。

さしあたり建ぺい率を三倍にし、
日照権や道路幅から来る斜線制限を廃止しただけで、
都会地の不動産は大きく値下がりするであろう。
地価そのものが値下がりしなくとも、
住宅の供給がふえ、家質が下がれば、
それだけで庶民は大助かりである。

第二に土地を売却したお金が
再び国内の土地に向わないですむような
抜木的な分離課税制をとって、
他人がどんなに大金持ちになろうと、
どんな費沢三味に耽ろうと、
またお金をごっそり外国へ持ち出そうと
見て見ぬフリをすることである。

土地を売ったお金がまた土地に向かうばかりでなく、
付加価値の創造によって新しくできたお金まで
土地に向かうから土地が大暴騰をするのである。

さて、以上のような対策をはたして
日本の政策担当者たちが本気になってとろうとするだろうか。
もしそういうことが起こりそうもないようであれば、
土地は下がる方向にはないと考えなければならない。
したがって自分を守ろうと思えば、
やはり財産のかなりの部分を
土地に依存しないわけには行かないだろう。





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2013年10月7日(月)

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