死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第71
普通人は都内に住めない

東京の土地が大暴騰をしてしまったので、
堅気の人たちが都内でマイホームを持つことは
ほとんど絶望視されるようになってしまった。

ここで言う堅気とは、もちろん、
平均的サラリーマンのことである。
平均的サラリーマンが一生かかって稼ぐお金は
二億円から三億円の間と言われている。
この金額の中には、税金は言うに及ばず、
ふだんの生活費から子供の教育費まで含まれている。

それに対して都内のマンションは安くても坪当たり五百万円、
二十坪のマンション一室買っても
一億円が珍しくなくなってきた。

一億円のうち10%の一千万円を自分の貯蓄の中から
頭金として払うとしても、残額の九千万円を住宅ローンで払えば、
年利が七・五%として三十年均等で月に六十三万円くらい、
二十年なら七十二万五千円くらい、
毎月返済しなければならない。

三十歳から四十歳までの年齢で、毎月税引き後、
それだけの手取り収入のある人は滅多にいないから、
平均的サラリーマンが東京に
二十坪ていどのマンションを買うことすら
不可能だということがわかる。

つまり既にマイホームの手当てがすんでしまった人、
親からいずれ家を受け継ぐことになっている人、
田舎に資産があってそれを処分すれば、
東京に家を買うことのできる人は別だが、
仕事の関係上、
どうしても東京に通勤しなければならなくなった人は
さしずめ家のことで立ち往生してしまう。
そうした新入りにとって東京に住む方法は、
(1)会社の提供してくれる社宅、もしくは、寮に住む。
(2)家賃を勤務先に支払ってもらう。
(3)借家に住む。四家族は地方都市に住まわせて
東京に単身赴任する。
大体、以上の方法くらいしか考えられないが、
近年、社宅や会社の寮に住むのは
すっかりハヤらなくなったために、
社有不動産を整理してしまった会社も
かなり多いのではないだろうか。

不動産の値上がりが常識的な線を突破して
利回り採算にのらないようになると、
住居は、(1) 借金してでも買ったほうがいいか。
それとも(2)借家に住んだほうがトクか、
と言う議論が盛んになってくる。
たまたま住宅数が所帯数を突破し、
貸家もあまるようになってきたから、
こうした議論が可能になったのだが、
自分の住む家に関する限り、
ソロバン勘定だけではおさまりきれない感情的な部分が残る。

「狭いながらも楽しい我が家」と歌の文句にもあるように、
住む家が自分の持ち物であれば追い立てを食う心配もないし、
室内の模様変えをしようと、建増しをしようと、
自分らの一存できめることができる。

反対に、公団住宅に住んで釘一本打つのにも
許可を得なければならないとか、
娘を嫁にやる年になってもまだ公団住宅ですか、
ときかれると、肩身の狭い思いをしたりする。

したがって一億円で年利六%とすると金利だけで
年六百万円、月にして五十万円。
ところが、お金を出して買うと
一億円払わなければならないマンションでも
現実には二十万円も出せば簡単に借りられる。
とすれば、借りたほうがトクなんだ、
とキッパリ割り切ってしまえそうなものだが、
そうもいかないところに家というものの難しさがある。





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2013年10月8日(火)

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