死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第72回
新交通綱の整備も必要

もし時価一億円もするマンションを
二十万円くらいで借りることができたら、
何も一生アクセク働いて
住宅ローンの返済に追われることはないだろう。

年をとってから住む家に困らないようにするためなら、
家は地方都市にでも建てればよいし、
収入の道は株を持つなり、事業に出資するなり、
貯金するなりすればよい。
何が何でも、家を東京に持たなければならない理由は大してない。

ましてこれだけ東京の不動産が値上がりすれば、
現実の問題として、たとえ住宅ローンをフルに利用しても、
とうていまともな住居は手に入らないのだから、
そもそも東京に家を持つことはあきらめるよりほかない。

東京郊外に無理をしてマイホームを建てた
サラリーマンが辞令一本で地方都市に転勤になる。
すると、家族を連れて転勤するのが常識であったが、
最近は子供の教育のことや
家をどう処分してよいかわからないということもあって、
本人だけ単身赴任をするケースがふえた。

金曜日か、土曜日になると、新幹線か、
飛行機を利用して自宅に帰り、日曜日のタ方になると、
また勤務先に戻る風景が見られる。

札幌や福岡のような支店経済で成り立っている都市に行くと、
単身赴任者専用のワンルーム・マンションまでできている。
こういう勤務方式が時代の流行だとすれば、
東京と地方都市の関係を逆転させて、
大多数のサラリーマンが地方に居を構え、
逆に一家の主人だけ東京に単身赴任する
ということも可能なのではあるまいか。

むろん、そうなる前に、
政治が解決しなければならない問題がたくさんある。
何と言っても、ただでさえ核家族化してしまった
最小単位の家族をバラバラに引き離すことは
社会政策上から言っても決してほめたことではない。
だから、都内の建ぺい率を緩和して、
収容スペースをできるだけ拡大する必要もあるし、
また交通網の整理改善を行なって、
遠隔地からの通勤ができるようにする必要もある。

いったん、高くなってしまった地価を抑え込むことは難しいし、
また抑え込むことに伴う副作用も大きいので、
お金で解決できないことを時間で解決するとすれば、
近頃、話題になっているリニア・モーターカーを利用して
思い切った通勤時間の短縮を図ることも1つの方法であろう。

リニア・モーターカーができれば、
新幹線で二時間かかった東京、名古屋間も
一時間以内でついてしまう。
甲府までなら二十八分だそうである。

それならば、名古屋に住んで東京に通えばよい
と思うかも知れないが、
関東地方の地図をひらいて見たらすぐにわかることだが、
関東地方で、東京からさほど離れていないところで、
交通路線がうまくつながっていないために、
地価が坪当たり五万円もしていないようなところが
いくらでもある。

そうした地域に放射線型にリニア・モーターカーを走らせれば、
十分以内、十五分以内、二十分以内で
東京都内のそれぞれの拠点に到着することは、
技術的に見ても決してそんなに困難なことではない。

距離を時間の短縮で解決することができさえすれば、
住宅地の問題は何とか片がつく。
たとえば、ニューヨークは、東京と違って、
最初から高層化によって住宅問題を処理してきたので、
東京ほど深刻ではないが、
さすがにマンハッタンだけでは
ふえる人ロを収容しきれなくなってしまった。

最近、私はセントラル駅から電車に乗って
ニュージャージーとか、その付近の郊外地域を見て回ったが、
郊外に次々とコンドミニアムが建てられており、
そういうところから通勤しても、
セントラル駅までニ十分とはかからない。

マンハッタンでパーキング、
スペースを一台分確保するだけでも
月に二百七十ドルくらいはかかってしまうから、
郊外の自宅か、郊外の駅前パーキングに駐車して、
電車に乗って通勤したほうがずっと便利である。
そういうサラリーマンがニューヨークでふえつつあるが、
それでも東京のサラリーマンよりは
うんと時間の倹約になっている。





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2013年10月9日(水)

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