死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第78回
やはり大本命はアメリカ

その理由として、第一に考えられることは外国人でも、
非居住者でも、あるいは外国法人でも、
自由に不動産の売買ができることであろう。

したがって日本に住む日本人が個人名義でも、
あるいは会社名義でも、
アメリカの不動産を手に入れることができる。
しかし、相互間に租税協定のある国の間では、
相手国で収入のある者は合算をして
税金を払う義務があるので、
そうした相関性を断ち切るために、
現地法人をつくるのが常識になっている。

現地法人であれば、
現地の収入に対して法人税を支払えば、
含み資産は課税の対象にならず、
配当をした場合だけ合算の対象になるからである。

第二に何といってもカントリー、リスクの少ないことであろう。
政情不安や革命や戦争は外国資本の最も忌み嫌うものである。
フィリピンなどは、
アメリカの植民地だった時代があり、
アメリカ的な自由が継承されているかぎり、
外国人でも自由に不動産を入手することができる。

しかし、マルコスだ、アキノだと物騒な政治が続くと、
現地に住む華僑だって愛想をつかして
資本の逃避が起きるくらいだから、
フィリピンの不動産は売り一色となり、
新規の投資はなかなか起こらない。

その上、民主主義の総元締めであるアメリカは、
たとえ海外で戦争をしても、
災害は国内にまで及ばないという安心感があるから、
世界中で最もカントリー・リスクの少ない国
ということになっている。

第三は税率が低く、
税金のトラブルが少ないことであろう。
個人の税率が最高六〇%に及んだときでさえ
日本の累進課税率に比べれば低かったが、
それがレーガンによって五〇%、
さらに二八%まで引き下げられた。
日本人から見たら、今やアメリカはタックス・ヘブンである。

税金の安いのをめざしてアメリカに移住する人も、
見かけるようになったし、
法人の中でもいっそ本社を
アメリカに動かそうかと真剣になって考えるところもある。

第四に、不動産が将来も
値上がりする環境におかれていることであろう。
不動産が値上がりするためには、
以上のすべての条件を兼ね備えていなければならないが、
その上に産業が発展し、
国が長期にわたって栄えるという見込みがなければならない。

その意味では、日本はそうした条件をかなり具備しているが、
他国人の土地購入を制限しているし、
また税率も信じられぬくらい高い。
その上、何といっても既に値があがりすぎてしまった。
だから日本の不動産の値上がりには国際性がなく、
お茶の道具と同じように、
仲間うちだけで値をつけているようなところがある。
それでもなお円高傾向が続けば、日本の不動産は、
国際的に見てなお値上がりをする余地が残っている。

アメリカの不動産の場合は、
以上の条件のほとんどを充たしているが、
ただーつ「貨幣価値の高くなる国から
貨幣価値の低くなる国への投資は不利である」
という原則があてはまる。
もしアメリカからドルを円に換えて、
円で日本の株式に投資をして値上がりをしたとすれば、
円で儲かった上に、為替のレートで得をし、
利益が二重になるというメリットがある。

反対に円からドルに換える投資をすると、
かりにドル建ての不動産時価が上昇したとしても、
為替レートの差損によって、
折角の儲けが相殺されてしまうおそれがある。

だから、日本からアメリカへの投資は、
為替差損を考慮に入れて、
なるべく日本から円を持ち出す分は少なくして、
ドル建てで資金を調達して、
ドルで返済する方式をとらなければならない。

生命保険会社のように自己資金が多く、
しかも借入れを起こすことが
大蔵省から制限されている企業がアメリカで不動産投資をしても、
円建ての自己資金を持ち出さなければならないので、
折角、ドル建てで儲けた分を為替差損で
帳消しにされてしまうから、
期待されたような業績をあげることはできない。

その点、不動産会社でも、個人でも、
現地で資金が自由に調達のできる立場の者は、
日本国内にある不動産を担保にして、
アメリカで借金できるから、
アメリカのインフレやドルの貨幣価値の凋落を前提として、
アメリカの不動産投資で利益をあげる可能性に恵まれている。

もちろん、海外における不動産投資と
国内のそれとでは勝手が違うところが多い。
日本人は東京を中心とした、
それもビルの投資で利益をあげてきた。
だからアメリカへ行くと、
ニューヨークやロサンゼルスの高層ビルに集中して投資をする。

ところによってはビルの空室率が高いところもあるが、
買ってからあとテナントが引っ越してしまい、
あとが思うようにうまらないということもある。

またそういうビルは大手不動産会社が
主として食指を動かしているが、
中小の投資家向けの恰好の投資対象とはいえない。
別に中小業者向けに、
コンドミニアムと呼ばれているマンションへの投資があるが、
これは今の日本人から見ても、
採算ベースにのるものがまだかなり残っている。

こうした海外不動産に対する投資は、
日本国内における不動産投資が行き詰まれば
行き詰まるほど盛んになって行く傾向がある。
既に国内投資に行き詰まりを感じている人々は多いから、
海外に新天地を求めて見て行く人はいよいよ多くなるだろう。
日本人から見たらニューヨークやロサンゼルスや
その周辺は未開発の処女地みたいなものである。

実際に鍬を入れてみると、
次々と障害にぶっつかって
そう簡単なものでないことにたちまち気がつくが、
しかし、それでも十年前、五年前からそれに挑戦して
成功への道を歩みはじめた
日本人のパイオニアがいないわけではない。

製造業の分野で海外進出が常識化したように、
不動産の分野でも同じことがこれから起こると見てよいし、
それはまだはじまったばかりと見ても
そんなに聞違ってはいないだろう。





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2013年10月15日(火)

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