死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第81回
節税にもなる含み資産づくり

人類の歴史は、物価とか、
通貨とかいった側面から見る限りでは、
インフレの歴史である。
だから、それになれたところから、
次の値上がりがはじまる。

戦後、デノミをやらなかった日本では
貨幣の単位がイタリアのリラ並みに高額になっているので、
坪一億円の地価というとびっくりしてしまうが、
通貨をもし百分のーに切り下げてしまえば、
坪百万円ということになる。

すると、実質は同じでも百万円なら
「まだ安い」「もっとあがるだろう」ということになって、
また次の新高値に挑戦することになる。
だからここが最高値だといったようなことは
土地に関する限り、あり得ないのである。

富を形成する要素は、
アダム・スミスの昔から、
労働、資本、土地の三つということになっている。
労働は人間なら誰でも持っているものであり、
人間が働く意欲を失っても駄目になるし、
年をとって働けなくなっても駄目になる。

自分の持っているお金を自分に投資して
自分に付加価値をつけることは大切なことであるが、
それは自分一代にしか通用しない。
だから社会資本を国民の教育に使うとか、
会社のお金を社員教育に使うことはあっても、
それによって生み出された労働力は
売買のできる性質のものではない。
いざという時に
会社がお金にかえることのできるものではないのである。

その点資本は、あるときはお金の形をとっているし、
生産設備とか、土地とか、ほかの形に変身していることも多いが、
そういう場合でもお金で評価することができる。
資本は生産や販売の設備やシステムをととのえ、
原料や商品を仕入れ、
労働を雇い入れて富の創造に従事する。

それによって生産される商品や
販売される商品の付加価値がそれらの人々に利益をもたらす。
しかし、それは不確定要素の強いもので、
ときとしては暴利と呼んでよいような莫大な利益をもたらす半面、
ときとすると思惑がはずれて
事業体そのものを崩壊に瀕させるようなことも起きる。

商売がうまく行っているときは、もっと儲かる方法がないか、
もっと事業を安泰にする方法はないかと考える。
事業が行き詰まって倒産に直面するようなときは、
何とかして助かる方法はないものか、
誰かが救援の手をさしのべてくれないものか、と考える。
そういうときに一番役に立つものが土地である。

商売の順調なときはお金が儲かる。
儲かれば、ごっそり税金にとられる。
税金にとられないように、
できれば税金に払うお金で会社の内容を充実させ、
資産をつくっておく方法はないものだろうか。

社員の訓練をしたり、
社員の愛社精神を喚起するためにお金を使うのも
投資の一種であろう。

しかし、確実な収入が見込めるようになれば、
収入の十倍にあたる借金を起こして不動産を手に入れ、
収入を借入金の金利に充当すれば、
節税をしながら、含み資産をつくることになろう。

この含み資産は歳月が重なると、
信じられないくらいの巨額にふくれあがる。
東京駅前の三菱地所の所有地は
明治時代に坪二円で買ったものだが、
おそらく今なら坪一億円で羽が生えて売れて行くだろう。

その三菱地所が田村町の旧NHKに隣接する日産ビルの敷地を
坪一千万円で買ったときは気違い沙汰のように言われたが、
これとても十倍ではきかないような値段になっているに違いない。





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2013年10月18日(金)

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