至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第13回
女のひとりバー

仕事で、テンションを上げるだけ上げた後
底抜けに呆然としてしまうときがあります。
はいお疲れ、と言われても
心は、そう簡単にはほどけない。
私がバーへ行きたくなるのは、そんな時です。

女の人がひとりでバーへ行くっていうのは
危なくない? と
と言われることがよくあるけれど
幸か不幸か、危ない目に遭ったことが
ないんですね、これが(笑)。
というか、危なくない店に行きます。

ただ、敷居の高い感じはしますよね。
バーは男の聖域っていう
ちょっとハードなイメージがあって
浮いたら嫌だなぁと思うので
なかなか新規開拓は難しい。

いいマスターと、いいお客さんがいて
いい音楽が流れ
おいしいお酒と気の利いたつまみがちょっとある。
結局、ひとりを心地よく過ごせる場所であればいいのですが、
それが難しく、いろんなツボがあって
(これについては言いたいことがいっぱいありすぎる!)
結果、ひとりで行けるバーを
私はそんなに多くは知りません。

その貴重な隠れ家のひとつに行きました。
恵比寿の『BAR blue』。
カウンターの片隅に座り
何を飲もうか考えていると、マスターが
「金柑が入ってますよ」と言うのです。
金柑を皮ごとかじりながら
シャンパンを飲むのが、けっこう合うのだ、と。
キンカンというあまりに素朴な語感の果物と、
洗練された味わいが魅力のシャンパン「Taittinger」。
このアンバランスな組み合わせに
心が動きました。
そういえば、蜂蜜やシロップで煮たり
漬けたりしたのでない、生の金柑を食べるのは
何年ぶりだろう?

ほどなくカウンターに現れたのは、
真夜中の太陽みたいな、鮮やかな橙色の金柑2つ。
まんまるい健康的なルックスに
思わず頬をゆるませながらかじってみる。
すると、ハッとするほど爽やかな香りが
突然ぱぁっと広がります。
金柑の皮は思いのほか甘く、果肉はほんの少し酸っぱく。
みずみずしい果実の余韻を、シャンパンが
すっきりと潔く流し去り、
私の指と鼻先にだけ、金柑の香りが残る。

そうしてようやく、はらり、はらりと
気持ちがほどけていくのです。


■BAR blue
東京都渋谷区恵比寿1-12-5 萩原ビルV 5F


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