至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第15回
たまにはバーを、1軒目に

夜まだ浅い8時。
練馬の『モルトハウス アイラ』の
カウンターには、誰も座っていませんでした。
やっぱりバーですから
2軒目の利用が多いのかも、と思いながら
でも
空腹の胃のほうがモルトの味が鮮明にわかる
という言葉が気になって
私は満を持してやって来たわけです。

私はシングルモルトをほとんど知らないのですが
でも、ここなら大丈夫。
味の好みや、以前に飲んだものがどうだったかなどを
話すと、ちゃんとお薦めを選んでくれます。
その日はマスターでなく
美人の女性バーテンダーが
初心者の私にと、2つの銘柄を教えてくれました。

ひとつめは「THE BALVENIE 21y port wood」。
ポートワインを熟成させた後の
空樽で熟成されたものだそう。
ふくよかな口当たりで
舌の上に
優しい甘さが広がります。

ふたつめは「MACALLAN 34y HART BROTHERS」。
1967年から寝かせた、同い年のウイスキーは
とても不思議な味わい。
口に含むと一瞬甘く、
きゅっと流し込んだ途端に
果実味のある香りが喉の奥から立ち上って、
やがてほのかな苦味を残す。
その、香りの広がり方と言ったら
後から後から、ぐんぐん、ぐんぐん押し寄せ
34年の歳月を思わずにいられないくらい
ドラマティックなのです。

たしかに、空腹だと
味の輪郭のようなものが
くっきりわかる。という気がします。

それにしても、34年。
私が幼稚園、小学校、中学校……と
成長して、
勉強したり恋愛したり仕事したりと
忙しく生きていた、その間
樽の中で静かに熟成していたウイスキー。

お酒も人間も
熟成されたほうがおいしいですよね、と
お決まりのようなひとことを自分で言って、
そうですね、と返してもらって
しみじみと
バーの夜は更けていくのです。


■モルトハウス アイラ
東京都練馬区豊玉北5-22-16 キジマビル2F


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