至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第76回
シェフとセカンド、そしてコック

イタリアで修業している日本人コックが
日本で紹介されるとき
「実質的に厨房を任されている」
という意味で、
「シェフ」と表現していることがあります。
そんなとき
私は現地で訊いてきたコック達の言葉を思い出し
違和感を覚えずにはいられません。
細かいことだと思われるかも知れませんが
正式にシェフであることと
実質的なシェフの役割をしていること
この差は、小さいようでやっぱり大きいのです。

では、どこが違うのか。
まず、イタリアの厨房は大きく分けて
上から
シェフ(経営者でもある場合はオーナーシェフ)、
セカンド(スーシェフとも言います)、
その下はすべて同じくコックとなります。
ただしドルチェ(デザート)部門はまた別の場合があります。

ちなみにスペインではちょっとシステムが違い、
全体を総括するシェフ、セカンド、
その下に
前菜、肉料理、魚料理などの各部門ごとに
部門シェフがいて
さらに数人ずつのコックがいるとのことでした。

ともかくシェフとは、厨房の最高責任者。
しかしながら
仕事への関わり方は、人によってじつにさまざまです。
私たちが想像するように
毎日厨房に立ってコック達の陣頭指揮を執る人もいれば、
リストランテの顔として
テレビ出演や講演などの広報的な役割に徹し、
包丁を握らない人もいます。
ほかにも現場ではその日のメニューを書くだけという人、
サルサ(ソース)作りなど
自分の好きな仕事だけをする人……。

そしてシェフが厨房にいない場合、
セカンドが実質的なシェフとして働くことになります。
現実的な作業と、人と料理をとりまとめる
いわば厨房の現場監督でしょうか。
そしてイタリアでは今
この「実質的にはシェフ」と考えられる日本人が
だんだん増えてきています。

厨房を任されるということ自体、
本当にすごいことですが
しかし、だからといってシェフではありません。
リチェッタ(レシピ)を含めた
店の土台づくりや最終判断はやはりシェフの役割。
星を落とした、評価が下がった、客の入りが悪くなったなど
一切を引き受けるのはシェフの責任。
そのプレッシャーもまた、シェフに科せられた仕事です。
シェフ以外のコックは、
世の中に看板も名前も張っていない立場の人であり
表舞台には出ない人です。

コック達に話を訊くと
「シェフはやっぱりシェフ。大きい存在」
と口を揃えます。
名前を張るということの重さと
異国で、日本人がシェフとして正式に公表されるまでの
乗り越えなければならない壁の高さを思うと
シェフという言葉を
簡単に使ってはいけない気がするのです。


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2004年4月5日(月)

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