至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第107回
ゆるゆる、ゆるゆるしに行こう

たからものは、見つけにくい所にあるのが世の常です。
その店もまた
非常に不便な場所にあります。
一番近い駅で白金高輪台ですが、歩いて10分。
恵比寿からタクシーを使えば
1000円ちょっと。
お散歩がてらにふらりと寄れる店ではありませんが
でも、私としては
そうまでしても行ってしまう一軒なのです。

魚藍坂近くのとある路地。
ほっこりとした灯りがともる『アダン』では
ドアを開けた瞬間から、
ゆるやかな空気が流れ出します。
べつに沖縄の民謡が流れているわけでもなく
ウチナーグチが飛び交っているわけでもないけれど
たしかにそれは、沖縄の空気です。

……と、私は感じたわけですが
しかしご主人によれば
沖縄料理の店というわけではないらしい。
たしかに沖縄のもあるけれど
タイ料理もあればお刺身もある。
旅先で出合った食べ物を作ったりもしている、いわば
アダンの家庭料理なのだとか。

どの料理も実直な味わいです。
私が必ずいただくのは、
すりつぶした鶏のささみが隠し味の、さといものすり身揚げ。
ほかにも
明石のゆでだこも、味噌ラフテーも好きだし
お酒も泡盛だけでなく、
二日酔いの日は(それでも飲むかと言われそうですが)
ミントをがっしり入れてくれる
ティー・モヒートがいい。

ここの好きなところを並べると
ちょっと大変なことになりそうです。
ご主人の、どこか力の抜けた楽しそうな顔。
働いている人の、きびきびした感じ。
お酒を飲む人達の、はれやかな声。
その中で
ただ、ただ、ゆるゆる過ごすこと。

ゆるみ過ぎて
食べ過ぎて飲み過ぎることも、珍しくありません。
(週末は混むので長居は避けますが)

私はこの店へ
人生のたからもののような人たちと来ました。
家族、秋田の友人、
お隣の人とその家族、沖縄好きの友達。
なかには
仕事先の人や、もと仕事先だった人もいますが
かつて一度も
気の張る人と一緒だったことはありません。
そういう場所ではないのです。

これを書いてしまうと
人間関係に支障をきたしそうですけど、
好きだなぁ、とか
もっと話したいひとだなぁ、と思うと
「アダンへ行こう」
と誘うクセが
ついてしまっている気が、書きながらしてきました。


■アダン
東京都港区三田5-9-15 TEL 03-5444-4507


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2004年5月18日(火)

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