至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第138回
フィレンツェのトラットリアで

私事で恐縮ですが
数年前、新婚旅行でフィレンツェのトラットリアを
訪れました。
雑誌に載っていたその店は、いざ行ってみれば
よく言えば静かな
悪く言えば人通りのない、ちょっと薄暗い通り沿いにあり
本当に大丈夫なのかと一瞬不安になるくらい
狭い入り口。
でも、えいっと入ってしまえば
そこにはワクワクするような空間が広がっていました。

奥へと伸びる、意外なほど広いサーラ。
調理場から溢れ出てくるいい匂いと
イタリア語のお喋り、笑い声。
席に通され、椅子に腰をおろす頃には
ああ、きっといい店だ
と確信していました。
(夜だから気づきませんでしたが中庭もあったようです)

トラットリアといっても
ジーンズで訪れた私がちょっと申し訳なく思うくらい
隣の席のご婦人は
燦々ときらめくすごいネックレスをしていましたし、
蝶ネクタイの紳士もいました。
早い時間は
そんなオシャレした英語圏の外国人が多く、
遅い時間は
ジャンパーを着た地元の客がどやどやとやってきては
マンマと一緒に冗談を言い合うような
不思議な店。
日本人客はその日、私たち以外にはいなかったのに
しかしカメリエーレとコックにはひとりずつ、
修業している日本人がいました。
そういえば、オーダーをすべてこなして厨房の火が消えると、
仕事を終えたコック達はみんな飲み始めてしまい
私たちが勘定を終え、帰る頃には日本人コックも真っ赤な顔で
「チャオ〜!」
なんて手を振っていたっけ。

フィレンツェといえば
キアーナ牛やジビエなどの肉が有名ですけど
なぜかそこは
魚介料理がおいしく(その謎は後で解けます)、
お客はリッチな格好なのに
ソムリエ役のおやじさんは
黒のスーツに革のタブリエならぬ、白いTシャツ姿。
しかしながら
ワインをデカンターレする様は
一分の隙もないほどプロフェッショナルで美しく
神聖な儀式のようでさえあり
うぶな新婚夫婦は
それはそれは感激しまして
今もふたりの殿堂入りの一軒になっています。

そんな話を、東京・木場で語ることになろうとは
その時は想像もしていませんでしたけれど。
トラットリア『イ・ビスケロ』の
オーナーシェフ・早川智也さんは、私が訪れるよりもっと前に
この店で修業した人だったのです。


←前回記事へ

2004年6月30日(水)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ