至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第140回
木場の賑やかなトラットリア

トラットリア『イ・ビスケロ』は
都心からはちょっと不便な東西線・木場駅にあります。
さらに駅から約7分。
商店街もない、ベッドタウンでもない
失礼ながら人の気配がしない立地の、しかも2階。
なぜこの場所に? と訊けば
やはりというか
生まれ育った場所だから、とのことでした。

郊外なら家賃が安いという
経営的な理由もあるかもしれませんが
最近、
地元で店を開きたいという
シンプルな気持ちで動く若者が増えてきた気がして、
それはまた
人生でいちばん大切にしたいのは何だろう?と
考えた結果であるような気がして、
私はそこに、私にはない
地に足のついたたくましさを感じているのです。

それにしても、さっきから誰にもすれ違わないんですけど
と心配しながらドアを開けたとたん
そこには『パンデモニオ』(第133134回参照)のごとく
お客さんの笑い声が満ちていました。
平日なのにほぼ満席。びっくりです。
なぜここだけ人口密度が高いのか。
訊けば
近くには外資系などのオフィスが多くあって
基本的にこの辺りの人が
利用してくれるのだそうです。
早川シェフは、サバサバとこう言います。
「この場所に店があるって
知ってもらうまでは苦労したけど、知ってもらってからは全然。
逆に通りがかりでなく
この店が目的で来てくれるお客さんばかりだから
自分のスタイルでやれるんですよ」

自分のスタイルと訊いて
やはり会社を辞め、イタリアでコック修業を始めた
ある日本人コックの言葉を思い出しました。
「僕は日本のイタリア料理を知らない。
イタリアのイタリア料理しか知らないから
ここ(イタリア)で覚えたことをやるだけです」

イタリアでの修業に、たぶん正解はありません。
日本で経験を経てから行く者、
イタリアでコック修業をスタートする者、
複数の土地や店を数ヶ月ごとに渡り歩く者、
一箇所に長く留まる者、同じ店は1年と決めている者など
目的も、修業の仕方も人それぞれなら
帰国後に求めるものも同じではありません。
もちろん生活していかなければなりませんけど
繁盛するのが成功なのか
儲けはそこそこでも納得のいく料理を作りたいのか
手広く多店舗展開したいのか
長く愛される一軒を育てたいのか。

ひとつの答が、ここに生まれつつあります。
フィレンツェのただ一軒の店で4年間修業した
早川シェフのスタイルは
今、こうしてみる限り
日本のお客さんに受け入れられているようです。
98年のオープンなので、もう6年目になります。


■TRATTORIA i’bischero(トラットリア イ・ビスケロ)
東京都江東区東陽5-11-2 ルミナス木場公園2F
TEL 03-5635-5077  
URL http://www.ensuisha.co.jp/ibischero/


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2004年7月2日(金)

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