至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第148回
わらをも使うヴァルドの伝統料理

ある雑誌の仕事で
祖師ヶ谷大蔵にある『フィオッキ』が取材候補に挙がり
下見に行きました。
小田急線の各駅停車で、新宿から
代々木上原も経堂も過ぎて、約25分。
駅の改札を抜けると、商店街が伸びていて
初めて訪れたはずなのに
前にも来たことがあるような錯覚を覚えるほど
ありふれた風景が広がっています。

この町にある『フィオッキ』は
ここで生まれ育った堀川亮シェフのお店です。
私はここへ来たら
ぜひぜひ、食べたい料理がありました。
「仔羊のわら包みロースト」。
これはピエモンテ州の2つ星リストランテ
『Flipot(フリッポー)』の料理で
堀川シェフは、約2年間のイタリア修業のうち
9ヶ月間をその店で過ごしています。

『フリッポー』は
トッレ・ペッリチェ渓谷という、
ピエモンテ州の北西、フランス寄りの谷間にあります。
本書の取材時も、行きたいと熱望していたものの
私が拠点にしたアルバからは遠かったため
断念したという経緯があります。

ここはその昔、カトリック系によって山に追われた
ヴァルド派と呼ばれるプロテスタント系が
後に移り住んだ
複雑な歴史的背景のある地で、
そのためピエモンテのほかの土地とは異質な
独自の食文化をもつのだそうです。
土に生えるものは何でも料理に使うため
花も、干し草さえも
ここでは食材になるのだとか。
『フリッポー』のオーナーシェフ
ヴァルテル・エイナルド氏は、地元の人。
羊飼いの暮らしをしていたヴァルド派の伝統料理を
リストランテの料理へと昇華させている
……という情報だけは得ていましたが
なんせ肝心の料理を、私は食べたことがないので
はがゆい思いです。

5月刈りの香りのよい干し草で
仔羊の背肉を蒸し焼きにする料理は、
『フリッポー』を代表する一品です。
もちろん日本でやるからには
まるっきり同じではないだろうけれど
でも、その皿が
祖師ヶ谷大蔵のリストランテで食べられる!
私はもう、がっつく準備万端で
商店街を小走りしました(遅刻だったのもありますが)。


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2004年7月14日(水)

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