服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第53回
さあ、背筋を伸してピー・コートを

ピー・コートを着たことがありますか。
ピー・コートは学生の着るものじゃないか、
という声が聞こえてきそうですが、そうではありません。

日本では主として「ピー・コート」と言いますが、
欧米では”ピー・ジャケット”と呼ぶことが多いものです。
まるで上着のように羽織るコート、
といった印象を持っているのでしょう。
ピー・コートは本来、甲板の見張りに立つ船員が着たものです。
寒風吹きすさぶ夜にも見張りはあるわけですから、
完全防寒を目的としています。

大きな襟を完全に立ててしまえば、
耳や頬までも包んでくれるのです。
前身頃の打合せは、左右どちらにも
ボタン留めができるようになっています。
寒風が右側から吹いてきた時には、
打合せを考えて風をやり過すことができるのです。
また両胸の左右にマフ・ポケットが付いているのも特徴のひとつ。
”マフ・ポケット”は「手を温めるためのポケット」の意味です。

むかし海軍では
両手をポケットに入れることを極端に嫌ったのですが、
ピー・コートのマフ・ポケットだけは例外だとしたのです。
これはポケット位置が高いので、
手を入れた場合でも姿勢が悪くはならない、
という意味があったのです。

しかし今ではすっかり忘れられているピー・コートの特徴は、
素材に極厚のメルトン地が使われていたことです。
雨も風も絶対に通さないほどに緻密で、
厚いウール地だったのです。
もしもピー・コートを新調しようとするなら、
実際に手でさわってみて、
できるだけ厚手でしっかりとしたものを探してみましょう。
運良く、海軍の放出品などが見つけられることもありますよ。

白いタートル・ネックのスェーターに
ピー・コートはよく似合うものです。
背筋をピンと伸して、元気良く歩いてみようではありませんか。
これは背が伸びるコートなのです。


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2002年11月15日(金)

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