服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第70回
タキシード着こなしのコツ

タキシードにはなぜ絹の襟が付くのか知っていますか。
たいていは剣襟やショール・カラーですが、
まず例外なく絹地が張られます。
あの襟のことを「拝絹」(はいけん)と言います。
正しくは”シルク・フェーシング”です。

タキシードに限らず現在の上着の原型は詰襟であり、
その詰襟を外に倒した時に、今のようなスタイルになった。
襟(ラペル)はかつての裏地が出たものなのです。
そして昔の裏地には絹が使われていたから、
当然襟も絹になるという考え方なのです。
つまりそれほどに伝統を尊重したスタイルですよ、
というわけなのでしょう。

実は”タキシード”はアメリカでの表現で、
イギリスでは必ず”ディナー・ジャケット”と言います。
ついでながらフランス語では”スモーキング”と言います。
これらはまったく同じものを指しており、
それぞれの国で言い方が違っているのです。
これらの言葉は、その昔の夕食時の固苦しい燕尾服を、
なんとか簡略にしようという発想から
はじまっているためなのです。

ところでタキシードを着る時、ひとつだけ注意すべきは、
ポケットのフラップ(雨蓋)を内側にしまっておくことです。
最も正式のタキシードには
最初からフラップ(雨蓋)が付いていません。
なぜかと言いますと、
タキシードは完全な室内着だと考えられているからです。
部屋の中では雨が降らないから、雨蓋も必要ないだろう、
というわけです。

タキシードの下にはたいていオペラ・パンプスと呼ばれる
履き口の浅い靴を合わせるのはご存じの通り。
これも同じように室内履きに出発しているからなのです。
さらに古くは宮廷舞踏靴から出発しています。

エナメルを塗って光沢を出しているのも、
ダンスの際に相手の女性のドレスの裾を
靴墨で汚さないための配慮なのです。
これでたぶん格段に着こなしが上手になるはずです。


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2002年12月2日(月)

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