服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第73回
タキシードか、ディナー・ジャケットか

なぜ同じものをタキシードと呼び、
またディナー・ジャケットと呼ぶのか、知っていますか。
アメリカでは“タキシード”、
イギリスでは“ディナー・ジャケット”
という違いがあるからです。

これらのふたつの呼び名は、
当然、同じスタイルからはじまっています。
それは“カウズ” cowes という服です。
カウズは英国、ワイト島にある有名な避暑地。
1880年頃、ここで新しいスタイルが生まれます。
それはしっぽのない燕尾服。
暑い季節の避暑地で食事するのに、
わざわざ燕尾服を着ることもないだろう、
ということから生まれた特別なファッションだったのです。

この英国での、新しいファッションに
敏感に反応したアメリカ人がいました。
グリスワルド・ロリラードという名の
煙草王の息子でありました。
G・ロリラードはニューヨーク州東部の、
タクシード・パークに広大な別荘を持っていて
ここを背景にタクシード・クラブを作ります。
そしてここで第一回の秋の舞踏会を開いたのが、
1886年10月10日のことです。
その舞踏会に、男性会員は全員
真紅のテイルレス・イヴニング(つまりカウズ)を
ユニフォームとして着用した。
これが後に話題となって、“タクシード”
tuxedo となったのです。

一方、英国では避暑地専用であったカウズが
やがてロンドンでの食事の後でも着られるようになる。
食卓では燕尾服を着、食後、喫煙室で、
葉巻や食後酒を楽しむ時に、略礼服に着換えた。
だから“ディナー・ジャケット”と呼ぶようになったのです。
そもそもは「食後服」と訳すのが正しいのかも知れません。

アメリカでも時に“ディナー・ジャケット”
と言うことはあります。
でも少し気取った感じになります。
一方、英国で“タクシード”と言わないでもありません。
これは洋服屋仲間での専門用語という感じを持っています。


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2002年12月5日(木)

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