服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第72回
ブラック・タイに味わいを

タキシードにはなぜ黒い蝶ネクタイか知っていますか。
黒い蝶ネクタイですから、
“ブラック・タイ”と言います。
また広く一般に“ブラック・タイ”といえば、
タキシード(ディナー・ジャケット)の意味にもなります。
もしパーティーの招待状に
“ブラック・タイ”と書いてあったら、
タキシード着用の意味なのです。

一方、“ホワイト・タイ”とあったら、
それは「燕尾服着用」の意味になります。
たとえば宮中晩餐会などのかなり正式な場合でしょう。
ついでながら略式の案内状には“ノオ・ドレス”と書きます。
「正装には及びません」という意味です。

さて、むかしの夜間正装は
燕尾服(イヴニング・コート)と決まっていました。
今ではオーケストラの指揮者がこれを着用することがあります。
燕尾服には必ず、白麻の蝶ネクタイを結んだものです。

白麻の蝶ネクタイを結んでみれば分ることですが、
すぐにシワになるし、汚れやすい。
つまり結び直しがきかない蝶ネクタイでもあったのです。
おそらくは正式な会に対する、
一期一会といった思いもあったのでしょう。

ところが19世紀末になって
燕尾服からタキシードへと変化してゆく間に、
白麻よりももっと略式で良いということから、
黒絹が使われるようになったのです。
黒絹は白麻にくらべてシワになりにくく、汚れにくい。
何度でも結び直しができる。
まさしくタキシードにぴったりの蝶ネクタイだったのです。

ブラック・タイといえばよほどおしゃれな人でも、
既製の、結びきり型が常識となっています。
あれは昔は使用人のための量産品だったのです。
できれば手結び型の蝶ネクタイを着用しようではありませんか。
専門店で今でも探すことができます。
また結び方も難しくありません。

自分の手で結ぶと、完全には左右対称にはならず、
ここに本当の味わいが生まれるのです。


←前回記事へ

2002年12月4日(水)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ