服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第78回
ショール・カラー対ピークト・ラペル

タキシードの襟はへちま襟と剣襟、
どちらが正式か知っていますか。
ショール・カラーとピークト・ラペルの別名であることは
言うまでもないでしょう。

でも、これはたいへん難しい問題なのです。
タキシード(ディナー・ジャケット)の原型である
カウズが生まれるのは19世紀中頃のこと。
これが“ドレス・ラウンジ”を経て、
1890年頃に“ディナー・ジャケット”となるのです。

カウズ(タキシードの原型)や
それに続くドレス・ラウンジは
まず例外なくショール・カラーでした。
これは燕尾服の剣襟と区別するために、
あえてそうしたのです。
毅然たる略式の部屋着だったのですから、当然でしょう。

ところが20世紀に入り、1930年代になると、
むしろ燕尾服よりもディナー・ジャケットが優勢になってくる。
もはや略式でもなく、部屋着でもない。
わざわざ燕尾服と区別する必要もない。
そこでピークト・ラペル(剣襟)が
流行するようになるのです。

つまり19世紀の考え方としてはショール・カラーが正式であり、
20世紀の考え方としてはピークト・ラペルが正式である、
ということになろうかと思います。

では21世紀の今としてはどのように考えるべきなのか。
やはりピークト・ラペルのほうが
優位に立つものと思われます。
もし、新調の予定がおありのようでしたら、
迷わず剣襟のディナー・ジャケットをおすすめします。

ところで細かいことですが、
前ボタンを裏表にひとつづつ付けるほうが正式なのでしょうか。
いいえ、そうではありません。
リンク・フロント(「拝み合わせ」とも)と呼ばれるのですが、
趣味の問題であり、
正式か否かということとは関係ありません。
「拝み合わせ」にするくらいなら、
むしろ前ボタンを外しておくほうがよほど上品だと思います。


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2002年12月10日(火)

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